ジェッダ地方選挙

—投票所視察と女性へのインタビューから見える変革の胎動&mdsh;
投票会場入り口 ナツメヤシとサウディ・コーヒー(筆者撮影)
投票会場入り口 ナツメヤシとサウディ・コーヒー(筆者撮影)
英国エクセター大学アラブ・イスラーム研究科 辻上 奈美江 
 4月21日、約40年ぶりに行われた地方選挙の最終段階に当たる第三ブロック(サウディアラビア西部及び北部)において「市町村」選挙が実施され、2月にリヤードを皮切りにスタートした一連の地方選挙がついに完結しました。これまで国民の政治参加が認められていなかったサウディアラビアでの一連の選挙は、同国の政治的発展を刻む歴史的な出来事となるでしょう。

 第三ブロックの選挙では、約33万3千名が有権者登録を行い、計244議席をめぐって4600名以上が立候補しました。このうち選挙の焦点となったジェッダ市では、7議席に548名が立候補する激戦が繰り広げられました。

 投票前の7日間、候補者の多くは多額の資金を投じて、仮設テントを設置し、集まった人々に時には食事を振る舞い、選挙活動を行っていたことが連日報道されました。選挙活動の方法は、日本とは異なりますが、ジェッダの地方選でも、民主化への兆しが現れたといえるでしょう。

 投票日に、最大の激戦区となったサファー地区を訪れてみました。ジェッダは昨年12月に米領事館へのテロ攻撃を経験したばかりですが、選挙当日の投票会場周辺は、別段厳しい警備体制が敷かれているわけではありませんでした。筆者が訪れた投票会場のひとつの入口では、デーツ(ナツメヤシ)とサウディ・コーヒーでもてなしを受け、むしろサウディアラビアらしい優雅さの中で投票が行われた印象を受けました。

 投票方法は、日本とよく似ていますが、会場内で人々が投票するのを候補者が見守っていたことが、サウディに特徴的な光景でしょう。候補者たちが意欲を高めたり、投票者との親近感をもてる演出がされているように感じました。

 筆者の訪れたサファー地区では、約122名の中から1人が選出される激戦でした。この投票会場で候補者の数名にインタビューする機会を得ましたが、競争率が高いため、誰もが勝算はほとんどないと述べていたのが印象的でした。しかし、別の見方をすれば、高い競争率にもかかわらず立候補した彼らからは、国づくりや街づくりに対する意欲や改革支持の姿勢を窺い知ることができるでしょう。

 筆者は、選挙の前夜に数名の女性活動家へインタビューを行いました。今回の選挙では女性は立候補や投票の資格が与えられなかったものの、女性活動家らの間では活発な議論が行われていました。

 彼女らの間では、夫に投票に行くよう勧めるかどうかについて意見が二つに分かれていました。一つ目は、今回の選挙では自分の声が反映されないからこそ、せめて夫は投票すべきだ、というものであり、もう一方は、社会の半分(女性)が無視されている選挙は公正性に欠けるから、夫には投票しないよう勧める、というものでした。
投票会場内(筆者撮影) 会場の外で候補者の名前を確認する投票者達(筆者撮影)
投票会場内(筆者撮影) 会場の外で候補者の名前を確認する投票者達(筆者撮影)
 筆者の現地調査の主な目的は、リヤードとジェッダの女性活動家などを対象に政治参加に対する意見聴取を行うことでした。多くの女性活動家が、地方レベルでの政治参加では不十分であると考え、国政レベルでの政治参加を望んでいることが、インタビューを通じて明らかになりました。

 また、これまではあまり知られていないことでしたが、女性活動家らは、国民対話会議、ビジネス会議や学識者間での非公式なサロンを通じて、次第に緩やかなネットワークを形成しながら、国づくりに対する実に多様な意見を醸成しつつあることを実感しました。

 最近のサウディアラビアの情勢は、男性の政府関係者の間からも女性の社会参加を奨励する声が高まっていることを示しています。

 筆者は、今年2月に英国オックスフォード大学で開催されたサウード外相の講演会に出席しました。講演後の質疑応答では、聴講者から、女性に参政権が付与されなかったと指摘するコメントが投げかけられました。これに対してサウード外相は、次回の選挙では、女性に参政権が付与されるようサウディ政府は取り組むと述べましたが、その真摯な姿勢は非常に力強く新鮮で、多くの人に好感をもたれた様子でした。

 さらに今年4月、国王代行として国政のイニシアチブを執ってきたアブドッラー皇太子(現国王)はフランスのル・モンド紙に対して、サウディアラビアが女性を社会の中心に据えていることを強調し、5年以内にサウディ社会の女性に対する態度が変化するだろうと述べました。指導者が将来の女性社会参加の促進を約束した、前向きな発言と解することができます。その他複数の政府高官が、次期選挙における女性の参政権の実現の可能性を示唆しています。

 総括すると、選挙行政のあり方に関しては、サウディ政府による改善の必要性が残された点も見られたものの、全体としては、一連の選挙を契機に国民は国づくりに参画する意欲を高めたと評価できるでしょう。次回の地方選は2009年。女性の参加促進や選挙行政の改善を含めた一層の発展が期待されます。



(※役職名等は、すべて当時のものです)
転載:「日本サウディアラビア協会報」
No.215 September 2005

(2008年5月9日更新)













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