アラブの諺

その−3 言葉は雲、行動は雨

 私の住んでいたサウディアラビアの東海岸地方のカフジという町は皆さんが想像するとおり一年の大半が40度を越える炎暑の砂漠地帯です。しかし、10月末からぐっと気温が下がり、1月には最低温度が10度を下回ります。いわば、四季の代わりに二季といって差し支えないでしょう。

 11月頃になると、雲が沸き起こり雷の音と共に雨がぽつりと降り出します。アラブの人たちはそれを見て、Good Weather! と大喜びです。ある時には5分間くらい土砂降りの大雨です。逆に、雲がわきおこっても雨が降らないとがっかりするほどです。雨上がりの砂漠を散歩するときのすがすがしさは何とも言い表せないほどです。

 このアッラーの恵みの雨は大地を潤し、2月ごろ、砂漠には可憐な花が咲き乱れ、360度地平線しか見えない砂漠に果てしない花のじゅうたんが敷き詰められます。雨は4月末まで降りますがその後、急速に気温が上がり乾いた暑い夏が訪れてきます。この6ヶ月間の雨量は平均100ミリ位です。

 アラブには『言葉は雲、行動は雨』という諺があります。私たち日本人は「不言実行」ですから、ちょっと意味が違いますね。アラブでは「有言実行」なのです。


その−4 争いの仲裁人は拳骨の三分の二を覚悟せよ

 なるほど、このことわざは古今東西を問わず、歴史が証明しているのではないでしょうか。得てして、仲裁人はどちら側にも恨まれてしまいます。中東和平がなかなか実現しないのもどの国も嫌がって二の足を踏むからです。また、やむなく仲裁する場合でも相手に恨まれることがないよう逃げてまわって、これといった手が打てないからだと思います。

 さて、これは私のアラブ生活での出来事です。

 ある日、部下のサアドが血相をかえて私のオフィスにやってきました。見ると、鼻血をだして怪我をしているようです。興奮していてなにを言っているのか分かりませんので、別の男を呼んで彼に事情を聞くことにしました。どうも同僚のムハンマドと喧嘩をしたようです。

 当地ではこうした喧嘩で相手にけがをさせた場合は警察沙汰になるのは日常的な事ですから、さて、私も困りました。彼を下がらせて、ムハンマドを呼びつけました。彼もまた目を腫らしあいつを訴えてやるといきまいています。

 警察沙汰になれば二人とも2−3日は拘留され、裁判が終わるまで出てこられません。日々の忙しい仕事からこの二人が欠けてしまうのは私にとって容易ならざる出来事です。

 そこで、やむなく仲裁をすることになりました。双方に証人をつけさせた上で、事実確認の調書をとりました。勿論、二人とも相手の非をなじるだけでどうしようもありません。

 さて、このにわか裁判官は、調書をもとに二人を呼びつけ判決を言い渡しました。
 「サアド、君は自分の部族を誹謗されたがゆえにムハンマドを2発なぐった。しかし、この行為は部族の名誉を守るために当然の行為である」

 「ムハンマド、君はサアドから2発なぐられたが、そのうちの1発は彼の部族を侮辱したのだからなぐられて当然である。しかし、サアドのもう一発の分は余計であるが故に、君はこの分についてサアドにお返しした。これは正当な行為である。

 さて、この喧嘩について、私はどちらにも非がないと認めるので、君たち二人は握手をし和解することを命じる。君たちも警察につかまって仕事ができなくなるから、その間、給料がもらえないのは困るだろう」

 分かったのか分からないのか二人はその場で握手をし、アラブ流に肩を抱き合って頬にキスをしました。当然、この場面には二人の証人はいましたからもう仲違いできません。でも私は心配でたまりませんでした。また喧嘩が始まれば、今度は私自身の権威と失望が失われてしまうからです。

 そこで、オフィスボーイを呼びスーパーにペプシコーラ100本を買いに行かせました。(当時コカコーラはイスラエルボイコットのリストにあがっていたのでありません)そして、それを部内のスタッフ全員に配ったのみならず、余った分はほかの部にもって行かせました。

 こりゃどういう訳だといぶかるスタッフたちに私はこう説明しました。
『諸君! 聞いてほしい、私はあの仲違いした二人が和解したことを大変喜んでいる。この喜びを君たちにも分け与えたいのだ』

 コーラを飲んだ全員をこの件に巻き込んでしまった訳です。これで、この二人は喧嘩できなくなりました。げんこつは食らいませんでしたが散財でした。やはり仲裁人は損ですね。

今枝幹雄(NPO法人先端医療情報センター理事、元アラビア石油社員)


(※役職名等は、すべて当時のものです)


転載:「日本サウディアラビア協会報」
No.212 March2004

(2007年9月28日更新)













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