第4回シンポジウム「日本とイスラーム(サウジアラビア)の文化対話」

講演の概要

筆者:片桐早織


2004年5月29日(土)

基調講演 板垣 雄三氏(東京大学名誉教授)
「日本とイスラームの文化対話:過去から未来へ」

 聖徳太子、日蓮、国学者等の例を挙げながら、イスラーム的とも言える日本古来の清さや自然に対する態度、八百万の神とアーヤ、無宗教と条件付無神論の親和性といった類似点、中東理解において齟齬をきたした原因、また9.11以降の日本におけるモノスィズムに対する意識の変化、イラクへの自衛隊派遣後の状況変化など、歴史的解説を踏まえて現代・未来における課題が提起されました。
セッション1 テーマ: 諸宗教と文明との対話
1. アブダッラー・イブン・サーレハ オベイド博士
(サウジアラビア諮問会議議員)
「諸文明の対話におけるイスラーム的見解」

クルアーンを引用しながら対話の重要性と、相互理解が人間社会における最大の原則であることが語られました。

2. 安蘇谷 正彦博士(國學院大學学長)
「神道とはなにか」

弥生時代まで遡る神道の起源、共同体における生活の構成要素としての神道、産土神(うぶすなかみ)と勧請(かんじょう)という性格の違い、無意識の信仰、人間と神の一体化、共同体に功績のあった人間を神として祭る事例、神と人間の相互関係に見られる神道における人間と神の距離の近さなど、神道の基礎がわかりやすく語られました。

3. ムハンマド アルバシイル博士(イマーム大学教授)
「イスラームと日本の対話」

日本のイスラーム理解における欧米による悪影響、公正さと環境を保全するための対話の重要性、文化、科学、メディアにおける戦略的な対話の必要性を解説しながら、特に「文明の衝突」以後における課題が具体的に述べられました。

4. 杉谷 義純師((財)世界宗教者平和会議日本委員会事務局長)
「日本人の諸宗教とイスラーム教との対話」

宗教が歴史的に為政者によって利用され、宗教のもつ絶対性ゆえに争いのもとになった事を踏まえながら、宗教者としての世界平和のための在り方、世界宗教者会議の歴史的経緯、特に中東和平において果たした大きな役割、および9.11後の課題が述べられました。

5. イブラーヒーム ビン サーリフ アルファイーダーン博士
(イマーム大学教授)
「諸文明の対話におけるイスラーム的概念」

物質文明と芸術や道徳といった非物資文明の性格の違いを述べながら、人間が唯一、神の啓示を下された存在であること、クルアーンにあるようにムスリムはムスリム以外の存在を認め、その理解のために対話を重視すること、および多様性の尊重の重要性が語られました。

 

セッション2 テーマ 日本とイスラーム諸国間における国際関係の歴史的発展
1. アンワル ワージド イシュキー博士(陸軍准将)
「日本とイスラーム世界観の国際関係における歴史的発展」

ベルリンの壁の崩壊以後、資本主義の必然としての仮想敵国としてイスラームが想定されたこと、日本では対立問題を抱えていないが故に敵意は存在しないこと、日本がイスラームに接して以来、現代に至るまでの歴史が系統的に述べられました。

2. 片倉 邦雄氏(元大東文化大学教授。21世紀イスラーム研究会代表幹事、元エジプト、イラク大使)
「日本とイスラーム諸国間の接触―相互イメージの変化」

日本とイスラーム諸国間の接触とその経緯、それに伴う相互イメージの歴史的変化。特に明治維新、日露戦争における中東の日本に対する好感とイラク派兵以後の対日感情の変化が詳しく語られ、現実とイメージとのギャップを埋める為の課題が提示されました。

3. サーリフ ビン ハマド アッサクリー博士(イマーム大学教授)
「中東に対する日本の将来的役割」

湾岸戦争以後の日本の対外政策の変化。湾岸戦争では経済協力のみだった日本がイラクに関しては派兵に踏み切った経緯とアメリカとの関係から、技術力を軍事力に変えることのできる日本は、独立した視点でイスラームを捉えるべきであることが述べられました。

4. 中田 考教授(同志社大学神学部教授)
「日本のイスラーム世界外交の諸問題」

日本のイスラームとの接触時期が遅れた原因および接触後のイスラーム研究について。特に軍事的目的を伴った当時のインドネシアにおける政策のあらましと、それとは対照的な現代における政策について述べられました。

5. ナセル アルジュハミー博士
「サウジ・日本関係の歴史的発展―実りある協力と継続的パートナーシップ」

日本とサウジアラビアの関係が、日本における初期のムスリムのハッジ等から現代にいたるまで歴史的語られ、更なる相互理解のための具体案が提示されました。

 

2004年5月30日(日)
セッション3 テーマ: 日本とサウジアラビア文化・経済関係
1. サーリフ アルウヘイビー博士(世界イスラーム青年会議議長)
「イスラーム文明と世界文明におけるその影響」

西洋のオリエンタリズムの影響を受けることなく日本独自の捉え方で、経済関係のみならず文化における関係の強化を図るべきであること、およびサウジアラビアの青年層が日本の技術を学ぶ必要性が説かれました。

2. 稲永 忍博士(鳥取大学教授、同乾燥地研究センター長)
「サウジアラビアにおける水循環型オアシスネットワークの創生」

紅海からの風に湿気を与え雨を降らせるために森を創る、生活廃水を凍らせて不純物を取り除き、水を再利用するなどの、水資源を有効に再利用するためのプランが紹介されました。

3. ファハド アブデルラハマン アルマリーキー博士
(アブドルアジズ ビン ファハド殿下事務所)
「サウジアラビアと日本の文化・経済関係の概要」

NEC、三菱重工、日立などの民間企業における技術協力、ジャイカによる人材開発、輸入・輸出において互いに相手国が上位を占めるなど日本とサウジアラビアの関係の深さと、更に文化における関係の強化が必要である事が述べられました。

4. 加藤 正明氏(独立行政法人国際協力機構中東欧州部中東第一チーム長)
「イスラーム(サウジアラビア)に対する日本の技術協力について」

1975年の日サ経済技術協力協定によって始まった経済協力は、90年代以降、日サ協力アジェンダ―、河野イニシァティブにより新しい段階に入り 、非石油産業の充足と、環境保全プログラムの支援プログラムが組まれ、その実例と、更なる相互協力の必要性が述べられました。

5. マハムード モハンマド カミル ファエイズ氏(サウジアラビア商業省)
「サウジアラビアと日本の経済技術協力の歩み―現状と展望」

日本とサウジアラビアの経済技術協力の経過が詳細なデーターとともに語られました。今後も双方向の協調が期待されます。

 

セッション4 テーマ: アラビア語教育
1. 奥田 敦氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)
「文化交流とアラビア語学習」

アラブ関係の爆発的なニュースの増加により、アラビア語単語は急速に日本に浸透しつつあるが、大部分の日本人にとって中東世界のイメージは良くはない。一方無条件に良好であったアラブ世界の日本観は、現在の日本政府の政策により変化しつつある。このような状況で学術と文化研究において新しい変化と兆しが見え、また日本人にとってアラビア語を学ぶ事は様々な効用が挙げられることが説かれました。

2. サラーフ マダニ ムハンマド アブドルラハマン氏(アラブ イスラーム学院、専任講師・教務主任)
「日本人向けアラビア語カリキュラム編纂と日本語の特徴」

日本語とアラビア語の比較研究により、日本人向けアラビア語のカリキュラムが編纂され、特に音声語彙の伝達およびイスラーム文化的表現等が考慮されました。日本語の特徴としては、語順、格助詞、外来語などの多さが挙げられます。今後は写真付き辞書の編纂や、ネットによるアラビア語教育など計画中とのことです。

3. 本田 孝一氏(大東文化大学教授)
「日本社会におけるアラビア書道の関心の高まり」

アッバース朝に始まるアラビア書道の歴史に触れながら、日本における経緯、吉田左源二氏の功績、今日 日本社会においてアラビア語書道に対する関心が非常に高まり実績をあげていることなどが、美しい作品とともに紹介されました。

 

シンポジウム提言発表
サーリフ ビン スライマーン アル ワハービ博士

総評として、サイトと情報センターの確立、電子辞書の編纂、双方における翻訳および視聴覚の強化、出版強化、日本語の普及と技術情報の交換等等が提案されました。

各セッションにおいて、質問、意見が多々寄せられ、しばしば時間延長の白熱した内容となりました。最後に記念品、感謝状が贈呈され、シンポジウムは無事閉会しました。






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2004年 アラブ イスラーム学院