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ハディースの理解とそれが導くこと |
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1 イスラームの律法の素晴らしさ
イスラームは生活すべてを完全に網羅しているカリキュラムのようなものです。そこには信仰・アッラーへの崇拝行為・モラルが含まれていますし、正当な権利者の権利を守り、個人の生命・財産・名誉を守るための律法が含まれています。判決は相違あるいは争い事を解決する基礎であり、また権利がその持ち主に帰属するための律法でもあります。そのためイスラームでは判決に関し、他人を好き勝手に支配することを好む一部の者たちの手を禁じるために、またウンマを不正と無益から守るために規則を定めました。
2 証人とその種類
- 姦通罪における証人:男性の証人4人(女性は含まない)
アンニサー章15節『あなたがたの女たちの中、不貞を働いた者には、あなたがたの中から、かの女らに対し4名の証人をたてなさい。』
アンヌール章4節『貞節な女を非難して4名の証人を上げられない者には80回の鞭打ちを加えなさい…』
- 姦通罪以外の殺人罪などにおける証人(窃盗・飲酒・無実の者を姦通罪の疑いにかけること):男性の証人2人(女性は含まない)
アッタラーク章2節『その期限が満了した時は、立派に留めるか、または立派に別れなさい。そしてあなたがたの中から公正な2人の証人を立て…』
- 財産に関する権利確定のための証人(商売・借金・賃貸など):男性の証人2人、あるいは男性1人女性2人からなる証人
アルバカラ章282節『あなたがたの仲間から、2名の証人をたてなさい。2名の男がいない場合は、証人としてあなたがたが認めた、1名の男と2名の女をたてる。』
- 女性限定のことに関する問題(出産・授乳など):学派によっては女性の証人1人というのも認めています。
3 証人は訴訟人の証拠であり、誓いは被告人の証拠である
ムスリムの裁判官はそれが訴訟人であれ、被告人であれ、その者が持つ証拠の正当性によって判決を下すよう命じられています。
4 訴訟人の証拠は被告人の証拠より先に提示を求められる
訴訟の準備が整い、裁判官がそれを受け入れた後、裁判官はまず被告人に訴訟されたことに関して尋ね、被告人がそれを認めれば訴訟が認められます。被告人が否定した場合には裁判官は訴訟人に証人を求めます。そしてそれが訴訟人に可能であればそこで裁判は終わります。
5 訴訟人が誓いをおこなうこと
被告人が訴訟人の訴訟に対して誓いを求めた場合、訴訟人が誓いを行うべきかその必要はないかということは学派によって意見が異なっています。
6 誓いの拒否による判決
被告人が誓いを行うことを拒否した場合には訴訟人の訴訟が受け入れられます。あるいは訴訟人に誓いが求められ、それを行えば訴訟が受け入れられ、誓いを行わなければ訴訟は受け入れられません。これは学派によって意見が異なります。
7 被告人はいつ誓いを行うのか?
「誓いを求められた時に行う」という学派と「訴訟人が証人を連れてきたときに行う」という学派があります。後者は人々が他人に対する嫌がらせとして訴訟を行うのを防ぐためのものとしています。
8 誓いはどのように行うのか?
裁判官が当事者双方に対して誓いを求めた場合は当事者たちはムスリムであれ非ムスリムであれ「アッラーに対して」誓います。
預言者は言いました。「アッラーはあなたがたが祖先に対して誓いを立てることを禁じました。誓いを立てる者はアッラーに誓いを立てるか、あるいは黙っていなさい。」
また裁判官はアッラーの御名にアッラーの偉大な特質を付属させて誓いを立てさせることができます。例えば、「彼のほかに神はなく、彼に並ぶものはないアッラーに誓って…」などです。これは誓いを立てる者の心にアッラーの偉大さを思い出させ、嘘の誓いをさせないようにするためです。誓いを立てる者がムスリムであればクルアーンを誓いの場にもってくることも許されていますし、そのものがユダヤ教徒であれば、「モーゼに啓典を授けたアッラーに誓って」、キリスト教徒であれば「イエスに啓典を授けたアッラーに誓って」と言わせることも可能です。
9 誓いにおける礼儀
スンナでは裁判官は誓いを立てる者に対して説法を行い、嘘の誓いを行うことへの警告を行います。そして嘘の誓いを立てることに対する罪が述べられたクルアーンの節を読み上げます。
アーリ イムラーン章77節『アッラーの約束と、自分の誓いとを売って僅かな利益を購う者は、来世において得分はないであろう…』
被告は起訴されたことが正しければ正直にそれを認めなければなりません。また逆に自分の言い分が真実であれば誓いを立てなければなりません。
10 1人の証人と誓いによる判決
1人の証人と誓いによっては判決は決まりませんが、財産権に関する判決に関しては1人の証人でもよいとする学派もあります。
11 証人たちが真実を見たということを訴訟人に対して誓わせる事
裁判官は疑わしい場合には訴訟人に対し証人たちが真実を見たということを誓わせることができます。また証人たちに対しても誓いを求めることができます。
12 裁判官が知っている事実に基づいて判決をくだすこと
裁判官が知っている事実に基づいて判決を下すことは禁じられています。たとえ裁判官が知っている事実が原告・被告が伝えることと異なっていても、目の前の証拠をもとに裁判を行わなければなりません。これは不正な裁判官が自分の欲望にのっとって裁判を行い不正がウンマに広がらないようにするためです。
13 判決はハラールのものをハラームとせず、またハラームのものをハラールとすることもない
当事者たちが嘘の証言をしたり、嘘の誓いを立てていた場合、なおかつそれが明らかにはならなかった場合、判決の決定がハラールのものをハラームにしたり、またその逆にしたりすることはありません。
例えば、ある夫婦に離婚が成立したと偽の証言を2人の証人が行ったとします。
その証言(離婚成立)を夫が否定し、裁判により裁判官が別離を夫婦に命じたとしても、事実は離婚が成立していないわけですから、妻は最初の夫以外の男性と結婚することはできませんし、逆に夫が妻と夫婦関係をもつことはイスラーム的に合法であるとなります。
14 公正な裁判官への報奨
裁判官は原告・被告両者の状況を正しく見極める努力を怠ってはなりません。
その努力の結果自分がこれが真実だと確信したことにより判決を下した場合、その結果が実際に正しい判決であったとしても間違った判決であったとしてもアッラーからの報奨があるのです。
預言者は言いました。「支配者が真理を見極める努力をし、それが正しければ2つの報奨があり、努力をし、間違っていたとしても1つの報奨がある。」
15 天国に入る1人の裁判官と地獄に入る2人の裁判官
裁判官はイスラームにおけるハラールとハラームのことをよく知っており、自ら法の出所を探すことができ、起こった状況にふさわしい法律を引き出すことができるものでなければなりません。またそのための努力を惜しまない者でなければなりません。
正しい知識なしに判決を下した裁判官は罪を犯したことになります。というのはたとえその時の判決結果が事実と偶然一致していたとしても次の機会には誤った判決を下す可能性がおおいにあるからです。また正しい知識をもちながら、自分の私利私欲のために事実と正反対の判決を下す裁判官も当然のことながら罪を犯したことになります。
預言者は言いました。「裁判官には3とおりある。1人は天国に入り残り2人は地獄に落ちる。天国に入る裁判官とは真実を知り、それに基づいて判決を下した者である。真実を知りながら不当な判決を下した者は地獄行きで、また真実を知らないのにもかかわらず人々の間を裁いた者も地獄行きである。」
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