アラブを見つめて
 

【権利の奪取】


 香港のある女性弁護士が、自宅のフィリピン人のメイドに対して訴訟を起こし ました。そのメイドが仕事において幾つかの点で欠けていたために―たとえば、 マカロニ料理に塩を使わなかったとか―。その女性弁護士は、メイドに対して持 つ自分の権利を自ら行使しようとはしないで、訴訟を起こすことを選び、メイド とその紹介者である彼女の叔父から、480ドルの損害賠償を得るべく尽力した のでした。

 一家の主婦である女性弁護士は、高等裁判所に訴えた訴状の中で、メイドを 雇って2週間後にはその仕事の不十分さゆえに彼女と決別せざるを得ず、その後 42日間に渡って、自分自身で家事をこなさなければならなかったのだ、と訴え ました。
 それに加え、メイドが何度も常識を使わない行動をし、一度などは、調理に塩 を使わなかったのだ、とも付け加えたのです。最後の表現は、その女性弁護士の 文明的流儀を反映しており、彼女は、自己の立場を保護し、メイドとその紹介者 である彼女の叔父に対して損害賠償の支払いを命じると思われる法制度によっ て、自己の権利を守ろうと動いたのでした。

 裁判ではこのような些細な問題でも長い時間を要するというのに、この弁護士 は、より安心で制度化された方法を、裁判の他には見出せなかったのです。彼女 がもし私たちの社会に同様のものを求めたならば、自分の目的を果たすためによ り短い道筋を見出したでしょうし、また、訴訟の労苦を背負うことも、裁判に適 した形式で問題説明をする準備をするといった面倒を負うこともなかったでしょ うに。

 概して、この問題の解決法は2つに分かれると思います。
その一つは、当事者である主婦の手による瞬時の解決であり、もう一つは、多く の理由で私たちがそうしたいと望んでいる解決法です。

 まず、最初の解決について言えば、このような場合に、怒って大声をあげた り、また時には叩いたりする女主人もいるかもしれません。中には、自分の怒り やストレスを吐き出して楽になるために、マカロニの入った皿を放り投げるか、 または塩のケースを放り投げるかする女性も。そして、そうでない場合は、忠告 するだけに留める女性たちもいるでしょうし、また、事を荒立てない女性たちも いて、メイドの方は何も悟らないままになる場合もあると思います。メイドはア ラビア語がわからず、また、主婦の方は英語がわからない、といった場合に。

 また、マカロニや料理の問題が解決したとしても、まだ「常識の使用」という 問題があります。しかし、香港のこの女性弁護士は、メイドがどのような論理で 自分と話すことを望むのでしょうか? 彼女は家事のためにメイドを雇っている のか、それとも、自分を納得させることができる能力を持つ話し手を必要として いるのか? この女性弁護士は、この点を忘れているのではないかと思います。 自分が家事のためにメイドを求めたのか、対話や人を納得させる常識を使わせる ためにメイドを求めたのかという、自分の要求を明確に説明していないために、 場合によっては、彼女は敗訴することもあり得るのです。

 それだけではなく、彼女はメイドに対し、仕事に留まるチャンスも、過ちを正 すチャンスも、また「常識」を学ぶチャンスも与えませんでした。人を判断する のに2週間という期間は全く不十分だと思います。2週間というのはごく短い期 間です。
 彼女がもしわが国で同様のことを求めたならば、メイドの適不適を判断する期 間として、3ヶ月という期間を告げられることでしょう。その期間中、すべての 問題は人材斡旋所に持ち込まれ、斡旋所はメイドが仕事に留まるよう説得して了 解を取り付け、その一方で、主婦側には、メイドの仕事がいずれは改善され、彼 女が主婦の要求を理解するようになるということを、説得します。そしてそれを 経てはじめて、すべての要求の実現が可能になるのです。しかし、この女性弁護 士には、自分が条件面で合意したうえで連れてきた人間が、自分の満足のいくよ うに適応するようになるまで待つような時間はなかったようです。彼女は問題を いち早く自分の手から離し、雇用主とメイドの両方の権利を守る法制度の保護の 許に、自己の権利を求めたのでした。

 さて、わが国における、この第2の解決法についてですが―これは、人材斡旋 所とのやり取りを経験したことのある者なら誰でも周知のことです―、たとえ ば、あなたが特定の条件でメイドなり運転手なりを求めていたのにもかかわら ず、その条件と全く違う人間がやってきたとします。あなたはすぐに斡旋所に 行って自分の依頼内容を要求しますが、斡旋所側は、あなたの要求が実現するま で何とかやっていくように言って時間を稼ぎ、それから約束の3ヶ月(*訳注) が終わると、メイドはさっさと逃げ去ってしまう、ということもあります。
(*訳注:この文面から、3ヶ月間のお試し期間中についても、雇用主は斡旋所 に何がしかの契約金を支払っているように思われます)

 このような場合を含め、自己の権利を求めて訴訟を起こした先の女性弁護士の ケースを参考にしてみましょう。もしもわが国で、誰かがあの女性弁護士の手段 を取ろうと考え、仕事をうまくこなさないメイドや、怠慢なメイド、あるいは、 運転手として連れてこられたのに実は運転を知らない者たちに対して訴訟を起こ すとすれば、一体、何千人の人々が続々と訴訟を起こすことになるでしょうか?  また、どれほど多くの国民がこのようなケースで損害賠償を受け取ることになる でしょうか?

 人材斡旋所での面倒な騒ぎや、彼らによく見受けられる依頼主軽視の扉を、あ なたは封じ込めることができるでしょうか? また、あなたは両者―メイドと人 材斡旋所―から損害賠償金を得るために、一体どれだけ多くの費用を払うことに なるでしょうか? とりわけ、さしたる理由もなく、自国との環境の違いを理由 に仕事を拒むメイドから。


筆者:ナジュワ ハーシム
サウジアラビア女性作家 

(2007年3月13日更新)

                

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