声と像
 

【声と像 4】



 大きくなった「かつての私の小さな娘」は、以前私が40年以上の年月を捧げ た外交の仕事についての更なる説明を求めてまたやって来ました。

 娘は前回の話の結末を、私に思い出させてくれました。それは、ムスリム外交 官にとって一番大事な義務は、人々の間に愛を広め、憎しみを拒むことだ、とい うことでした。この神聖なる命に応えて:

<われは……種族と部族に分けた。これはあなたがたを、互いに知り合うように させるためである。アッラーの御許で最も貴い者は、あなたがたのうち最も主を 畏れる者である。>
(聖クルアーン:部屋章13節より)

 そして彼女はこのように訊ねました。
「相互に平等な対応こそ、最も公正な対人関係の原則ではないの? 私たちの宗 教や民族に対して行われる他者の悪事について、どうして沈黙することができる かしら? 一体どのようにすれば、対立しあう双方の間に愛が成り立つという の?」

 そこで、アッラーの使徒―彼に平安と祝福がありますように―の行いの中にこ そ、良い手本があるのだ、と私は彼女に答えました。

 使徒の親族や部族の者たちは彼を激しく迫害しました。しかし彼は布教をあき らめずにアッラーからの信託を果たし、神聖なるメッセージを伝えるに躊躇など しませんでした。

 そして偉大なる創造主に向けて、人々は知らないのだから彼らを導いてくださ るようにと祈り、布教を続けたのです。使徒の人への接し方は私たちの良い見本 となり、真実の言葉は高く掲げられ、虚偽は消え去ったのです。(*訳注1)

 今私たちは、人類の長(アッラーの使徒モハンマド)を見習い、最善の態度で 議論しなければなりません。(*訳注2)相手側についての知識や情報を持つこ とはその良い議論の条件の一つであり、それにはもちろん、相手側が所有する知 識や文明的遺産や文化について知らなければならないのです。対話を同等なもの とするために。

 私は以前、わが国で社会的高位にある人物と、それと同位のある日本人との間 で行われた会見を見聞したことがありました。

 サウジアラビア人のその客人の話は、まず恒例の儀礼的な挨拶で始まり、そし てわが国におけるイスラーム聖法の実践についての話や、また私たちの社会が 人々に平等に機会を提供し、人権を尊重し、老人を敬い、子供を庇護し、隣人を 敬愛し、困窮する人々を助けること、そして清潔は信仰の一部であることなどを 紹介して、話を終えました。

 すると招待主の方は静かに微笑み、イスラームのメッセージが人類に与えた豊 かな人道について賛同しました。それから彼は、自分が30年以上前に卒業した 母校の大学で、この度、イスラームについて勉強してきたのだ、と言いました。

 彼はその客人の訪問を知り、また客人の学問的、社会的地位を知り、イスラー ムについてもっと知識を増やさなければならないと思い、専門書店へ行ってイス ラームについて語られた新書を集めたのです。そしてテーブル下に備え付けられ た棚に積み上げたその30冊以上の本や冊子を読んできたのでした。客人の考え に呼応し、会話を進める準備をするために。

 そしてその招待主は、客人が日本人の信条や文明的遺産や文化について知り得 たならばどうだろうか、と言いました。もしそうなら、客人が自分の社会につい て話したような恩恵に、日本社会も恵まれていることを見出すだろうし、良く知 られた日本人の道徳や、敬老、子供の庇護、隣人の尊重、困窮者への援助、そし て清潔は信仰の一部であることなどをも見出すであろう、と。

 日本人は、スポンジと石鹸とを使って、毎日のように寝る前に入浴するのだか ら。そして更に彼は、人としての天分が、そのような人間的な振る舞いを要求す るのだ、と言ったのです。

 その時私は、かつてモハンマド・アブドゥフ(*訳注3)が西洋社会を表した この言葉を思い出したものです:

「私は当地で、ムスリム不在のイスラームを見出し、責任ある立場の者との会見 の前には、それを実りあるものとするために、よく準備することが重要であると 悟ったのです。」

「最善の態度での議論」に適する事柄は、外交官が国外で行う多様なテーマにつ いての情報、意見交換の原則にも適しているのです。

 外交官は自分が担当する分野について充分に自らを教育しておかなければなら ないし、派遣先国でその専門分野の人々と扱うテーマについて、よく準備してお かなければなりません。

 派遣先国の人々の中で、外交関係者の友人や知り合いにアドバイスを求め、自 分が会うことになっている人々の考え方について知るべく、相談するのも悪くあ りません。

 また、文化やスポーツや社会面における相手の関心事を知っておくことも役立 ちます。会見の始めに、あるいは最後に、相手の趣味に関心を示し、またはその 有益さを評価し、それによって、別の機会に仕事を離れてそのスポーツや趣味の 場で会う道を用意するのです。

 すると娘は、以前よく見たゴルフの趣味について触れ、国家主席、首相、大使 や、また財界、政界、メディア界の重要人物のように社会的高位にある人々のほ とんどが、その趣味を持っているとコメントしました。

 私は彼女の観察に肯き、意思決定権を持つ人物がゴルフの趣味を持っている場 合には、大きな利益の実現のために、政界や財界の合意の多くが、あのプラス チックの小さな球を追いながら、ゴルフ場で行われるのだ、と付け加えました。

 ゴルフ場の開放的な空気や自然は、話を進めるのに最善の場所のようです。 私たちの動向を観察し、伝達する通信技術が支配する時代―いえ、おそらく近い 将来には私たちの考えや心までも支配してしまうことでしょう―にあって、ゴル フ場のような場所では、情報のリークや不穏な動きを心配する必要がないからで す。

 すると娘は、外交の仕事には秘密にしなければならないことがあるのか、と尋 ねました。そこで私は、そうだと答え、物事の実行が言葉(情報の流布)に先ん ずるに越したことはないのだ、と言ったのです。

 ここで壁の時計が真夜中を指して鳴り、私はまたの機会に話の続きをすること を約束して、娘の額に一つキスをし、彼女が静かに眠れるよう、そして楽しい夢 を見られるよう祈って話を終えたのでした。


聖マディーナにて―ヒジュラ暦1426年ズ=ル=カアダ月4日


*訳注1:この表現は、聖クルアーンの次の聖句をもじったもの:
<言え、「(今や)真理は下り、虚偽は消え去りました。本当に虚偽は常に消え る定めにあります。」>(夜の旅章81節)

*訳注2:「最善の態度で議論する」は、聖クルアーンの次の聖句の中で、アッ ラーが預言者モハンマドに命じた言葉:
<英知と良い話し方で、(凡ての者を)あなたの主の道に招け。最善の態度でか れらと議論しなさい。……>(蜜蜂章125節より)

*訳注3:モハンマド・アブドゥフ(西暦1849〜1905年)は、エジプト 出身のウラマー(イスラーム法学者)で、イスラーム改革思想家。



筆者:モハンマド バシール クルディー
前駐日サウジアラビア大使       

(2007年8月28日更新)

                

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