遠くの近い国
 

【シリアの秩序・無秩序 その2】


其の三 「シリアの時計」

シリアには独特の時間が流れている。まるで時計が私達の世界とは反対に回っているかのようだ。例えば彼らは予定を作らない。1週間先はおろか2日先の予定も知らない。だからと言って暇をしている訳ではない。当日になって何か用事ができるかもしれないから予定を入れないようだ。彼らを観察していると順番に従った用事よりも目先の用事から片付けていく傾向にある。他の予定を入れないために予定を作るのに…。予定と効率の世界で生きてきた私にとってシリアの時空は在留半年を過ぎた今でも未だに神秘である。

またこんな事もある。市内を走る乗り合いバスに乗ると運転手が突然車を止め、乗客を残して姿を消す。車の中がざわめきだした頃に戻ってくると手にはできたてのサンドイッチ。それを頬張りながら運転を再開する。

ところで、シリアの時計はよく止まる。電池切れではない。高いのも安いのも含め時計を買い替えて3個目。来た当時は留学生が同じ目覚まし時計を二つ並べて部屋に置いていた光景が奇妙に映ったが、今となってはその理由にもうなずける。シリアの時計もまた、シリアの時間を刻んでいる。

其の四 「パン屋の少年」

パン屋の少年がパンのたくさん並んだ大きなトレイを頭にのせてバスに乗ってきた。どこかへ売りに行くのだろう。彼は運賃を払わずに席に着く。あれ?と思っていると、パンをひとつ持ってきて、そっと運転手の横に置く。運転手も何も言わずにそれを受け取る。パンが少年の乗車料。首都といえども、ここダマスカスでは未だに「人情」が尊重され、それが私達の言う「秩序」や「制度」と置き換えられている場面がある。シリア人のその様な人間性に触れた時、整備された社会の中で人間関係が疎遠になってしまった私達先進国の人間は、心和まされたり、懐かしく感じたりするかもしれない。

其の五 「アナログ生活」

シリアでの停電は日常茶飯事だ。だから家庭にはロウソクが常備してある。調理用のコンロは自動でないからガス栓を捻りながら手で火を付ける。ストーブも灯油の手動式。シャワーも給湯器で水を1時間ほど沸かしてから使う。日本のように常時出る「お湯の蛇口」は一般的にない。先進国ではこれらを「不便」と呼ぶ。確かに効率は悪く、日々の雑用にも時間が取られる。しかし、アナログ生活の中では資源と直に接している時間が長いため、それらへの有り難みが増すのも事実だ。と同時に時の流れさえも肌で感じられる。回転の速い世界の中でシリアのアナログ生活は「贅沢生活」である。


執筆:白石美紗緒
アラブ イスラーム学院卒業生


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