アラブ社会
 

【麻薬中毒者は犠牲者か、それとも犯罪者か?】


 麻薬は世界各地で、そして特に青年たちの間で、社会を脅かす危険であり続け ている。そして麻薬中毒の影響は、社会という生地の紡ぎ目を裂く。その結果と して麻薬撲滅運動や中毒者の治療、彼らの社会復帰計画などが増加した。

 前回の文章では、サウジがこの害悪に対して払った膨大な努力について言及し た。サウジは一方で麻薬密輸者たちの監視に努め、もう一方では中毒者たちをそ の害悪から救うかもしれないところの、あらゆる手段の提供に励んでいる。

 サウジは麻薬中毒者を邪悪な陰謀の犠牲者と捉えている。そして彼らはその試 練から彼らを抜け出させる、救いの手を何よりも必要としているのである。この ような観点から、サウジは先駆けて中毒者の治療と社会復帰・適応のための特別 病院を創った。病院の名は「希望病院」、西暦1986年のことで、リヤド、ダ ンマーン、ジェッダの3都市に設立された。そこには看護人たちを始め、社会 学、心理学の専門家、精神科医などが常駐しており、まず中毒者はレセプション にてカルテを作成する。それから患者は専門家によってあらゆる観点から診断さ れ、麻薬服用に至った動機などについても調査を受け、それらは全て内密に記録 される。その後彼は他の分野の専門家たちのもとで更に診断を受けるが、病院ス タッフは患者の健康・精神・社会状況を考慮し、何度も会合を繰り返した上で治 療計画を立てる。治療は身体、精神、そして患者の社会的状況という分野にまで 至る包括的なものである。各病院には礼拝所、食堂、300人以上を収容できる 会議ホール、遊技場、図書館などが備えられており、かつベッド数は280に上 る。

 これらの病院における中毒治療は身体的側面、精神的側面、社会的側面など 様々な側面から行われている。中毒治療というものは精神面をさしおいて身体面 のみを治療することは出来ず、その逆もまた真であり、かつ社会が治療において 果たす役割も無視できない。そして治療は患者が麻薬の服用を自らに禁じる決心 をする瞬間に始まる。重要なのはそれが本人の意思によるものであることで、他 人からの押し付けではないことである。そうでなければ彼はその機会を与えられ るや否や、あっと言う間に麻薬服用に舞い戻ってしまうであろう。それゆえ病院 は患者を迎えて全ての情報と対処法を記した極秘カルテを開くと、治療計画につ いて心理学のアドバイザーに相談させる。治療は病院内で行われる他、外で行わ れる場合もある。

 サウジ政府は中毒者治療だけに留まらず、中毒から立ち直った者が再び麻薬に 戻らないよう努力をしている。「希望病院」では西暦1992年に中毒者自己援 助プログラムが行われたが、このプログラムは世界で最も敷衍している中毒治療 と見なされている。中毒者自己援助プログラムの理論はこうである:麻薬中毒者 は麻薬の摂取と受け入れる能力において、常人とは異なっている。つまり彼らは 身体に麻薬アレルギーがあり、麻薬やアルコールを摂取すると、身体の各細胞に 麻薬を渇望する命令が送られるのである。これはこのプログラムにおいて「渇望 する細胞」という専門用語で知られている。それゆえ中毒者は彼らの体に適応し ないところの麻薬、あるいはアルコールを完全に断たなければならない。そして もう1つのこのプログラムの理論は、こうである:つまり中毒患者は麻薬の問題 が分かっておらず、それが理性や身体、宗教的・社会的側面において影響を与え ることも分かっていない。麻薬中毒患者は麻薬に対する抵抗力を失ってしまった ことで、このような考えに基いて行動している。それゆえ中毒患者は麻薬や、理 性を害する全てのものを断つしかない。またこのプログラムの主な目的は、中毒 から立ち直った者の中毒患者に対するメッセージを届けることである。それゆえ このプログラムの集まりに参加することは、病状回復の継続に活性剤を打つ役割 を果たしている。大概の場合このプログラムに参加を続ける者は正常な状態であ り続け、普通の生活を謳歌している。一方プログラムに参加していない者の多く は、暫くしないうちにまた以前の状態に後戻りしてしまう。それゆえ集まりへの 定期的出席は必須である。このプログラムは多くの中毒患者の役に立ち、そして 病状回復に貢献した。彼らは主の恩恵のもと、「希望病院」に今も継続的に通っ ている。

 サウジの新聞会社「ワタン」紙は、ジェッダの「希望病院」にて1994年か ら現在まで中毒治療に成功した患者の数は3000人に上ると言っている。そし て外来患者の数は継続的に増加している、とも言っている。

 先に述べた全ての業績に加え、サウジはこの分野において革新的な事業を行っ た。それはつまり中毒から立ち直った者を社会に有益な一員となるべく復帰さ せ、そしてその後サウジ内務省が行っている麻薬の害悪に関する警告運動に協力 を仰ぐ、というものである。いくつかのサウジの近隣国においても、彼らの警告 運動は麻薬撲滅に一役買っている。

 また最近、麻薬中毒から立ち直った270人もの人々の会合が、祖国麻薬撲滅 運動評議会の監督のもと「希望病院」の協力を得てジェッダで開かれた。プログ ラムは麻薬中毒経験者たち自らの手で創られ、何人かの者がその麻薬に関する体 験談についてスピーチをした。そのうちの1人「イブラーヒーム」の体験談をこ こに紹介したい。「私は結婚しており、10人の子供がいました・・・。私は麻 薬の罠に陥り、ありとあらゆる種類の麻薬を試しました。始まりは普通のタバコ で、それからマリファナ、錠剤、ヘロインとエスカレートしていきました。ヘロ インは始めは鼻から吸引していましたが、それからカテーテル、注射と徐々に発 展させました。このようなことが20年間も続いたのです・・・。私は仕事を捨 て、妻は自分の家族のもとに去ってしまいました。子供たちは両親に面倒を見さ せ、私自身はそれが合法であろうとなかろうと、麻薬を手に入れるためのお金を 得る方法を求めて路上を流浪しました。そのようにして生活は困窮し、私の前に は3つの選択肢しかなくなりました。死か、牢獄か、あるいは治療です。私は3 番目のそれを選び、そして4度の失敗の後、ようやく4年前に―主に讃美あれ― 中毒の後遺から脱出することが出来ました。9ヶ月間の社会復帰プログラムも完 遂しました。」

 このようにサウジ政府は社会を麻薬から守るために、麻薬中毒者の更正や治療 にあらゆる努力を払っている。私たちは私たち、そして息子や娘たち、配偶者た ち、兄弟姉妹、その他大事な人々の身の回りに起こることについて注意深く監視 していなければならない。誰にでも危険は降りかかるのであり、事の始まりを逃 してしまえばそれは家族崩壊にもつながりえないからだ。そして社会は麻薬中毒 者が犠牲者であり、犯罪者などではないことをよく知らなければならない。そし て特に彼の治療始めには、私たちに彼らの面倒を見、理解する義務があることを 肝に据えなければならない。最後に、主に私たちの心身をお守り下さるよう、そ して全ての社会を悪からお守り下さるよう祈る。


筆者:ラシャー マンスーリー
アブドルアジーズ国王大学元研究員

                

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