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【イブン・マージド】
 

1.出身と学問的背景:

アラブの海洋地理学者として、また航海者として名高いイブン・マージドを紹介しましょう。彼の名は、シハーブッ=ディーン・アフマド・ビン・マージド・アッ=サアディー・アン=ナジュディー。オマーン湾西岸の町ジャルファールで生まれました。15世紀に活躍したと言われていますが、正確な生年や没年については不明です。

イブン・マージドは、航海者の一族であったナジドの家系に生まれました。父も祖父も、海洋地理学の発展に寄与した秀でた航海者でした。また一族の中には、羅針盤の発明に携わった人物もいたとも言われています。かつてアデン沿岸の船乗りたちは、シャイフ・マージドと呼ばれた人物が羅針盤を発明したとしてその偉業を称え、航海前には甲板の上で必ずこの偉人を偲んで、聖クルアーンの開端章を唱えたという当時の伝聞もあります。

イブン・マージドの記述によれば、彼の父と祖父は、かつて「2つの陸の船長」という尊称で呼ばれていました。つまり紅海のアフリカ・アジア両大陸沿岸における航海の大家として尊敬を集めていたのです。

イブン・マージドが現れた15世紀は、ムスリム学者たちによって地理学が高い地位を得た時代でした。海洋地理学に関しては、アルバターニー(西暦858〜929年)やアルビールーニー(西暦893〜1048年)などのムスリム地理学者たちも過去に著述していますが、イブン・マージドの豊かな航海経験は、海洋地理学に新たな多くの情報を加えたのです。のちにヨーロッパの航海者や地理的発見者たちは、イブン・マージドの貴重な情報から多くの知識を得、自分たちの海洋学の発展や、新たな地理学的発見のために役立てたのでした。

2.学問的業績:

イブン・マージドは、過去の地理学者たちが遺した著書から学んだだけではなく、父と祖父の長年の航海経験や、彼らの遺した海洋地理学の豊かな知識からも多くを学びました。そして更に絶え間ない研究と日常的な多くの航海を経て、それらの知識に新たな情報を加えました。そうして数多くの著書を遺すのですが、その中には失われたり、改ざんの憂き目に遭ったりしたものもあれば、幸運にも後世に伝えられ、海洋地理学の発展に大きく貢献したものもあります。

イブン・マージドの著書で、散文で書かれた有名なものは「航海術」です。この書は全12から成り、航海知識の集大成ともいうべきものです。
第1章では航海者と羅針盤の歴史と発展について、そして第2章では優秀な航海者が有するべき海洋に関する知識について述べられ、その他の章では、月齢や風向き、多数の水路についての案内、天文観測、そしてアラビア半島沿岸についての情報が取り上げられており、最後は紅海の詳細な描写で締めくくられています。

イブン・マージドの著書には、その他にウルジューザと呼ばれる詩の型で書かれたものが数多くあります。彼はそれぞれのウルジューザで、様々な水路を描写しました。それは大変詳細なもので、船乗りたちはそれを海洋図代わりにしたほどでした。
彼のウルジューザの中で最大のものは、「海洋学」です。それはおよそ1000行から成り、11項目に分かれていて、それぞれの項目に、陸の接近を示す徴や、月齢、また羅針盤といった特定のテーマが振り当てられています。

イブン・マージドが著書の中で案内した数多くの水路の中には、インド洋や紅海、マラッカ海峡、南シナ海、さらに中国の杭州等にいたる水路もありました。

前述の2つの著書、「航海術」と「海洋学」は、それぞれ散文と詩文という異なった形式で書かれてはいますが、その大きさや学問的価値から言って、両書ともイブン・マージドの最も重要な著書であると言えます。

イブン・マージドは、それまでの天文学や海洋学の専門家たちが記録し得なかった情報を記録しました。また彼は、後の地理学的発見において、ヨーロッパ人たちにさかんに用いられた海洋図「海洋案内」の作成者でもあります。彼が記した紅海の描写や、季節風、そして地域風などの解説は、海洋地理学を研究する後世の人達の礎となったのでした。

インド到達を果たしたポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマは、西暦1497−1498年ごろ、モザンビーク北部で多くのアラビア船舶を見たと言い、それらの船舶の航海者たちは皆、海洋羅針盤や様々な天文・海洋観測機器、また高度な海洋図を用いていたと述べています。またポルトガルの歴史家バロスによれば、ヴァスコ・ダ・ガマ自身、当時海洋地理学の大家であったマージドを代表とするアラブの航海者たちから、多くの学問的・実践的知識を得ていました。そればかりか、ヴァスコ・ダ・ガマのインドへの航海を先導したのは、イブン・マージドにほかならないと言われているほどなのです。


執筆: サルワ サラーマ

 

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