預言者たち
 

【預言者ムーサーとハールーン その5】
 


ムーサーと信者たちはパレスチナへの旅を続けました。

しかしその道中で偶像崇拝をする人々のそばを通りかかると、ムーサーの民は、その人々が崇拝しているような神を自分たちにも与えてくれるよう、ムーサーに頼むのです。そこでムーサーは「アッラーを畏れなさい。」と言って、その人々の行いは虚偽であると教え、アッラーはイスラエルの民を万有に優先させられたというのに、何故その恩を忘れ、アッラーを差し置いて崇める偶像などを彼らに与えなければならないのか、と言いました。そしてムーサーは、ファラオや彼の迫害について彼らに思い起こさせ、アッラーがいかにして彼らを助けられたかを思い出させました。それなのに何故、益も害もないものを、アッラーの同位者として配するのか、と。

ムーサーは彼らを連れて聖なる地へと向かいましたが、イスラエルの民には重大な使命―アッラーの宗教によって地上を継ぐという重大な使命―に対する準備がまだできていませんでした。それには詳細な啓示がなくてはならなかったのです。この民を教育し、その啓示のために彼らが向かうことへの準備をするために。

アッラーはしもべであるムーサーと会見の約束をなさいました。それは、ムーサーの心が重大な局面に備えるための準備でした。そのため、彼はハールーンを自分の後継として人々の間に残しました。

その準備の期間は30夜でしたが、更に10夜加えられ、その期間は40夜となりました。ムーサーはこの間断食をし、40夜の断食によって主に更に近付きました。またムーサーは、アッラーが彼に語りかけられたことによって、更に主への愛を深めたのです。そこでムーサーがアッラーにまみえることを望むと、真実なる御方はこのように応じられたのでした。

『彼は仰せられた。「あなたは決してわれを見ることはできない。だがあの山を見よ。もしそれが、相変わらずその所に安定しておれば、そこにあなたはわれを見るであろう。」主がその山に(神の御光を)現わして山を粉みじんにすると、ムーサーは(あまりに恐ろしいので)気絶して倒れた。』(聖クルアーン・高壁章143節より)

誰もアッラーの御光に抗うことなどできず、山は粉みじんになり、地面と同じになりました。そしてムーサーは意識を失い、気絶してしまったのです。

意識が回復した時、彼は言いました。「あなたの栄光を讃えます。あなたは目で見てそのお姿を認知されることを遥かに超越なされた至高なる御方です。あなたに自分の立場を超えたお願いをしたことを、私は悔悟してあなたに帰依します!そして私は、あなたとあなたの偉大さを信仰する者の先駆けとなります。」

それから主の御慈悲があらためて与えられ、ムーサーは吉報を受けました。彼はアッラーに選ばれ、解放後の自分の民への啓示を授かったのです。至高なる御方はこう仰せられました。

『「ムーサーよ、本当にわれは、わが啓示と御言葉によってあなたを万人の上に選んだ。だからわれが授けたものをしっかりと身につけ、感謝する者の一人となりなさい。」』(高壁章144節より)

そしてアッラーは啓示の内容を教えられ、こう仰せられました。

『そしてわれは、彼のために一切の事物に関する訓戒と、およそのことの解釈とを、碑の上に記して(言った)。「これをしっかり守れ。またあなたの人々に、その中の最も優れた(道)を守るよう命じなさい。われは主の掟に背く者の住まいを、やがてあなたがたに示すであろう。」』(高壁章145節)

その中には、啓示に関する事柄やその目的のすべてが記されていました。アッラーの教えやその聖法、またこの民の状態や、卑屈さと長い歴史によって腐敗してしまった彼らの性質を改善するために必要な道など。

主との約束の時が終わると、ムーサーは怒りを抱きながら自分の民の許へ急ぎました。自分が出かけた後、彼らが間違った道へと迷ったことや、サーミリーと呼ばれるイスラエルの男が彼らを迷わせたことを、アッラーがムーサーにお告げになったからです。ムーサーは怒りながらタウラーの板碑を持って山の頂上から降りました。ムーサーが主との会見へ出かけるや否や、サーミリーが人々を惑わし、試練が起きたのです。

その試練についての詳細はこうです。

イスラエルの民はエジプトを出る時、エジプト人たちの装飾品や金を一緒に持ってきました。それはイスラエルの民の女たちが身を飾るために借りたものでした。エジプトを出ることを命じられた時、彼らはそれを持ってきたのですが、後で投げ捨てました。それは彼らに許されないものだからです。サーミリーはそれを取り、それで仔牛の像を作りました。彼はその仔牛の内側を空洞に作り、その像を風の向きの方へ置きました。像の後ろの穴から風が入り、鼻の部分からその風が出るのですが、その時に、本物の仔牛のような鳴き声がするのです。

サーミリーは、紅海が二つに割れた奇跡で天使ジブリールが降りた時、ジブリールが通った土を一握り拾ったのだと言われています。つまり、サーミリーは他の人々が見なかったものを目にし、使徒ジブリールの通った跡の土をつかみ取り、それを金の中に入れて仔牛を作ったのです。

ジブリールが通った場所には必ず生命が与えられます。そのため、サーミリーが金にその土を加えて牡牛を作ると、本当の仔牛のようにそれは鳴き声をあげたのでした。そしてそれを持ってサーミリーはイスラエルの民の前に出たのです。

彼らはサーミリーに、「これは何ですか、サーミリーよ。」と尋ねました。

そこでサーミリーは言いました。「これはあなた方の神であり、ムーサーの神です!」それを聞いた彼らが、「でも、ムーサーは彼の主との約束のために出かけたではありませんか。」と言うと、サーミリーはこう言いました。「ムーサーは忘れてしまったのです。彼の主はここにいるというのに、主に会いにあそこへ行ったのです。」

そして風が吹き、金の仔牛の後ろからその風が入って、口の部分から出て行きました。するとそれは仔牛の鳴き声を出し、それを見たイスラエルの民は仔牛を崇めました。

ある日ハールーンは、イスラエルの民が金の仔牛を崇拝していることを知って驚きました。彼らは2つに分かれていたのです。それがくだらないものだとわかった少数の信者たちと、偶像崇拝の欲求に従った大多数の不信仰者たちと。

ハールーンは人々の間に立って諭し始め、こう言いました。

「あなたたちはこれによって試みられているのです。これは試練です。サーミリーはあなたがたの無知を利し、あの仔牛であなたがたを惑わせて試練をもたらしています。これはあなたがたの主でも、ムーサーの主でありません。主は、本当に慈悲深い方です。だから私に従い、わたしの命令に服従しなさい。(ターハー章90節より)」

仔牛に仕える者たちはハールーンの教えを拒みました。しかしハールーンは繰り返し彼らを諭し、かつて彼らが助けられたアッラーの奇跡やその寛大さ、また彼らへのアッラーの保護について、思い起こさせました。それでも彼らは耳をふさぎ、ハールーンの言葉を拒みました。そして彼を弱き者として威圧し、あわや殺してしまいかねないほどでした。ムーサーが帰るまで話を延期することで、彼らはようやくこの件の議論を終えました。ハールーンもまた、ムーサーが帰るまでこの件を延期したほうがよいと思いました。

ムーサーが人々のところへ帰ろうと山から下ると、彼らは仔牛の周りを踊りながら叫び、騒いでいました。そしてムーサーが現われると立ち止まり、静まり返りました。

それを見てムーサーはこう叫びました。

『「あなたがたが、わたしの不在中に行ったことは災いである。」』(高壁章150節より)

ムーサーはハールーンの方へ向いました。彼は怒りの嵐に全身を支配され、タウラーの板碑を地面に投げ出しました。そして手を伸ばし、怒りに震えながらハールーンの髪の毛とあごひげをつかんで引き寄せ、こう言いました。

『「ハールーンよ、彼らが迷うのを見たとき、何があなた(の義務の履行)を妨げたのですか。わたしに従わないのですか。わたしの命令に背くのですか。」』(ターハー章92〜93節より)

そこでハールーンは、自分が人々に立ち向かった時、彼らは自分を弱き者として威圧し、殺しかねなかったことを静かに優しく告げました。そして敵たちを喜ばせたり、これ以上自分を軽蔑させたりしないように、髪の毛とあごひげを放してほしいと頼みました。それを聞いたムーサーは、アッラーを愛するがゆえの怒りと、真実への熱望とが燃えさかるあまり、怒りに任せてハールーンに不義をなしてしまったことに気が付きました。ハールーンは、あの状況で出来うる限りにおいて、最良の処置を取ったのだということがわかったのです。そこでムーサーはハールーンの髪の毛とあごひげを放し、自分と彼のためにアッラーに御赦しを請いました。そして人々の方を向いてこう訊きました。

『「わたしの人々よ、あなたがたの主は、善い約束をあなたがたに結ばれなかったのですか。あなたがたには余りに長い約束のように思われたのですか。それとも主からの御怒りがあなたがたに下ることを望んだのですか。だから私との約束を違えたのですか。」』(ターハー章86節より)

そして彼は激しく怒りながらこう続けました。

『本当にこれら、仔牛を(崇拝の対象と)した者たちは主の激怒に触れて、この世の生活でも屈辱を受けるであろう。このようにわれは嘘いつわりを作り出す者に報いる。』(高壁章152節)

それからムーサーはサーミリーに向かってこう言いました。「ではサーミリーよ、あなたの(行ったことの)目的は何ですか。」

彼はサーミリーのいきさつを訊き、何が彼をそうさせたのかを知ろうとしたのです。するとサーミリーはこう言いました。

「わたしは、彼らの見なかったものを見たのです。(ターハー章96節より)私は馬に乗っているジブリールを見ました。彼が足を置いた場所には必ず生命が与えられます。それで使徒の足跡から一握りの(土)を取って(ターハー章96節より)、・・・つまりジブリールがその上を通った土を一握り取って金に投げ込みました。それを(仔牛の像)に投げつけたのです。私の心が、そうわたしに示唆したのです。(ターハー章96節より) これが、私の心が私にさせたことです。」

ムーサーはサーミリーの言い張ることについて議論せず、彼に真実の裁きを言い渡しました。

『彼(ムーサー)は言った。「出て行きなさい。生きている限りは、『不可触』ということになろう。決して破れない約束(処罰)があなたにはある。あなたがのめり込んで崇拝していた神々を見なさい。わたしたちはこんなものは焼いて海の中にまき散らすでしょう。」』(ターハー章97節)

ムーサーはこうしてサーミリーに、現世での孤立を言い渡しました。これは、サーミリーが触るべきでないものに触った懲罰として、彼が生涯誰にも触ることのないよう、ムーサーが祈ったからだと説明するクルアーン学者たちもいます。

サーミリーとのやりとりを終えるとムーサーは金の仔牛へ向い、それを火の中に投げ込みました。そしてそれを粉々にして海へ捨てました。

それによって惑わされ、試みられた人々の目の前で、彼らに崇められたその「神」は灰と化し、海へと飛び散っていきました。そしてムーサーは声を上げてこう言いました。

「(人々よ)本当にあなたがたの神はアッラーだけです。彼の外に神はないのです。彼は、すべてのものをその御知識に包容なされます。(ターハー章98節)彼こそあなたがたの神であり、それは自分自身に益も害も持たない偶像などではないのです。」

そして人々に向かい、この件のすべてを裁きました。彼は人々が自らを罪に陥れたのだということを分からせ、仔牛の崇拝者たちに悔悟の余地を一つだけ残しました。それは、主に従うイスラエルの者たちが主に背いた者たちを殺害し、それをもって、背いた者たちの主への悔悟とすることでした。

『その時ムーサーはその民に告げて言った。「わたしの民よ、本当にあなたがたは、仔牛を選んで、自らを罪に陥れた。だからあなたがたの創造の主の御許に悔悟して帰り、あなたがた自身を殺しなさい。そうしたら、創造の主の御目にも叶い、あなたがたのためにもよいだろう。」こうして彼は、あなたがたの悔悟を受け入れられた。本当に彼は、度々赦される御方、慈悲深い御方であられる。』(雌牛章54節)

しかしながらアッラーは彼らの悔悟を受け入れられ、彼らに御慈悲をかけられたのでした。

・・・続く。


執筆:ヌーラ アッダハマシ


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