預言者たち
 

【預言者ムーサーとハールーン その4】
 


真実と虚偽との間で新たな動きが始まり、ファラオは自分の王権と民の主として の立場が危うくなるのを危惧しました。家臣たちはイスラエルの民に対する迫害 を強めるよう彼に忠告し、ファラオはさまざまな方法で彼らへの迫害を強めまし た。そしていつもの野蛮さで考えをめぐらせ、このように決めたのです。

『「わたしたちは彼らの男児を殺して、女児を生かしておこう。わたしたちは、 彼らに対して権威を持っている」』(聖クルアーン・高壁章127節より)

そこでムーサーは自分の民に対して、この試練を耐え忍び、アッラーの御助けを 祈るよう命じました。本当に大地はアッラーのものであり、彼は御好みになるし もべたちに、これを継がせられる。最後は主を畏れ、彼以外の何ものも恐れない 者に帰するのだ、と。

『ムーサーはその民に言った。「アッラーの御助けを祈り、耐え忍べ。本当に大 地はアッラーの有である。彼は御好みになるしもべたちに、これを継がせられ る。最後は(主に対し)義務 を果たす者に、帰するのである。」』(高壁章1 28節)

こうして試練が始まり、ファラオと長老たちの協議によって、ムーサーの殺害に ついての取り決めがなされました。

『フィルアウン(ファラオ)は言った。「ムーサーを殺すことは、わたしに任せ なさい。そして彼の主に祈らせなさい。彼があなたがたの宗教を変えて、国内に 災厄を引き起こしはしないかと、わたしは心配でなりません。」』(聖クルアー ン・ガーフィル章26節)

ファラオの考えは、ファラオ一族のある一人の信者さえいなければ、合意を得る ところでした。信仰を隠していたその男は、ムーサー殺害の考えが持ち出された その会議で次のように意見を言い、その考えの不毛さと浅薄さを確証してみせた のです。

ムーサーはアッラーが彼の主であると言い、それから彼が使徒であるという明証 をもたらしたに過ぎない。そこにはただ2つの可能性しかあり得ないのだ。ムー サーが嘘をついているか、または本当のことを言っているか。もし彼が嘘をつい ているなら、その嘘は彼の身に降りかかることであり、彼は殺されなければなら ないようなことを言ってもいないし、してもいない。またもしも彼が本当のこと を言っているのに我々が彼を殺害したなら、彼が約束する懲罰から我々が救われ るどんな保証があろうか?

こうして信者の男がファラオを恐れさせようとしたにもかかわらず、彼は、のち にすべての高慢非道な者のたとえとなったこの歴史的な言葉で答えました。

『「わたしは(自分の)見えるところを、あなたがたに示すだけです。また(そ れが)あなたがたを、正しい道に導くのです。」』(ガーフィル章29節)

彼のこの尊大さと強情を受けて、信者の男ははっきりとこの最後の言葉を投げか けました。

『かの信仰する人は言った。「人々よ、わたしに従いなさい。正しい道にあなた がたを導きます。人々よ、現世の生活は束の間の享楽に過ぎません。本当に来世 こそは永遠の住まいです。悪事を行った者は、それと同じ報いを受けます。だが 善行をする者は、男でも女でも信者ならすべて楽園に入り、そこで限りない御恵 みを与えられます。

人々よ、これはどうしたことか。わたしはあなたがたを救おうと招くのに、あな たがたは火獄にわたしを招くとは。あなたがたは、アッラーを敬わないで、私の 知らないものを彼と一緒に配するよう勧めます。だがわたしはあなたがたを、偉 力並びなき方、度々赦しなされる方に招くのです。

まさしくあなたがたは、現世でも来世でも祈りを受ける権能のないものにわたし を招きます。本当にわたしたちの帰る所はアッラーの御許で、反逆の徒は火獄の 仲間です。わたしが言ったことを、やがて思い出すでしょう。わたし(自身)の ことはアッラーに委ねています。アッラーはしもべたちを見守られます。」』 (ガーフィル章38〜44節より)

信者の男は話し終えて立ち去りました。そこで出席者たちはムーサーから彼へと 目を転じ、彼に対して陰謀をめぐらせて殺そうとし始めました。しかしアッラー は、彼らの策謀の災厄から彼を救われました。

その後もファラオは人々の脅威であり続け、イスラエルの男たちを殺し、女たち を生かしておきました。そしてムーサーと彼の民はその迫害に耐え、アッラーが 道を開いてくださることを願ってその試練に耐え忍びました。

そこでアッラーはファラオの民を試み、恐れを抱かせるために、彼らに長年の旱 魃をもたらされました。それは、彼らにムーサーと信者たちへの陰謀をやめさせ るためであり、それと同時に、ムーサーの預言者としての使命とその言葉の真実 性を証明するためでもありました。飢饉がひどくなり、大地は渇いてナイル川は 枯れ、収穫が減って人々は飢えました。旱魃はひどくなるばかりでした。

ファラオはムーサーに対して、懲罰を除いてくださるように彼の主に祈ってくれ と言いました。そうすればイスラエルの民を彼に引き渡すと。そこでムーサーは 主に祈り、飢えや旱魃は除かれました。しかしファラオは約束を守らなかったの で、アッラーは別の懲罰を彼らに下されました。それは、農作物の減少です。

するとファラオはまたムーサーに祈願を頼み、ムーサーが主に祈るとその懲罰は 除かれて、国には豊かな糧が戻りました。

それでもファラオは約束を守りませんでした。そこで彼らがアッラーへの信仰へ 帰り、イスラエルの民を解放してムーサーと共に帰らせるように、アッラーは彼 らへの懲罰を激しくなされ、彼らに洪水とバッタ、シラミ、蛙、そして血を送ら れました。

するとファラオの一族はムーサーに対して、この試練から救ってくださるよう彼 の主に祈ってくれるよう言いました。そしてもし彼らを救い、試練が除かれたな らば、イスラエルの民をムーサーと共に帰らせると約束しました。

『彼らは言った。「ムーサーよ、わたしたちのためにあなたと約束されたという あなたの主に祈ってくれ。あなたがもしわたしたちからこの災厄を除くならば、 わたしたちはきっとあなたを信じ、イスラエルの子孫をあなたと一緒に、きっと 帰らせるであろう。」』(高壁章134節より)

そこでムーサーは、彼らから懲罰を除いて下さるようアッラーに祈りました。し かしながら、試練が除かれるや否や、彼らは約束を破り、以前と同様に戻るので した。

『だが、定められた期限になって、われが彼らから災厄を除く度に、見なさい。 彼らは(その約束を)破る。』(高壁章135節)

このようにエジプト人たちは正しい道へと導かれず、自分たちの約束を違えまし た。いや、それどころか逆に、ファラオは民の前に進み出て、自分は神であると 宣言したのです。エジプトの国土、そしてこれら足元を流れる川は私のものでは ないですか、と。そして彼は、ムーサーが嘘つきの魔術師で、ただの貧しい男に 過ぎないと宣言しました。ファラオがムーサーの言うことを信じず、イスラエル の民への迫害も止めず、また自分の民を見下すのを止めないことは、もはや明ら かでした。

ここにきて、ムーサーとハールーンはファラオに懲罰が下るよう祈りました。

『ムーサーは申し上げた。「主よ、本当にあなたはフィルアウン(ファラオ)と その首長たちに、現世の生活の栄華裕福をお授けになりました。主よ、彼らがあ なたの道から迷い出てしまいますように。主よ、彼らの富を滅ぼされ、彼らの心 を頑固にして下さい。それ故痛ましい懲罰が下るまで、彼らは信じないでしょ う。」

彼は仰せられた。「あなたがた両人の祈りは受け入れられた。だから姿勢を正 し、無知な者の道に従ってはならない。・・・」』(聖クルアーン・ユーヌス章 88〜89節)

それからアッラーはムーサーに、イスラエルの民と共にエジプトを出るよう、ま たその移動は夜に行うよう命じられました。そしてファラオが兵士たちと一緒に やがて彼らを追ってくることもお知らせになり、イスラエルの民と共にパレスチ ナの地へ行くように命じられました。やがてファラオと兵士たちはムーサーたち を追い、ムーサーとイスラエルの民は紅海の岸へとたどり着きました。

ムーサーは海を前にして立ち止まりました。ファラオの軍隊が段々近付いてきた ので、ムーサーの民は恐ろしさで一杯になりました。目の前には海、背後には 敵、そして彼らに海を渡る船はありません。しかも敵と戦うチャンスなど彼らに は少しもないのです。

彼らは女子供や武器を持たない男たちばかりの集団なのですから。ファラオは彼 らを最後の一人まで皆殺しにしてしまうに違いありません。ムーサーの民は叫び ました。「ファラオが我々に追いついてしまう!」

しかしムーサーは言いました。

『「決して、決して。本当に主はわたしと共におられます。直ぐに御導きがある でしょう。」』(詩人たち章62節より)

そして最後の瞬間、アッラーからの啓示が下りました。

『その時、われはムーサーに啓示した。「あなたの杖で海を打て。」』(詩人た ち章63節より)

そこでムーサーが杖で海を打つと、奇跡が起こりました。

『するとそれは分れたが、それぞれの割れた部分は巨大な山のようであった。』 (詩人たち章63節より)

ファラオは海にたどり着き、この奇跡を目の当たりにしました。そこに、海を二 つに分ける乾いた道ができたのを見たのです。そこで彼は、前進するよう軍隊に 命じました。

しかしムーサーが海を渡り終わると、アッラーは彼に啓示を下されました。

『「そして海は(渡った後に)分けたままにしておけ。本当に彼らは、溺れてし まうことであろう。」』(聖クルアーン・煙霧章24節)

ファラオと兵士たちが海の真ん中に差し掛かかると、アッラーは命令を下され、 大波がファラオと軍隊の上に折り重なり、彼らは溺れてしまいました。

ファラオは何の助けも持たずに自分が溺れていくのがわかると、こう言いました。

『「わたしは信仰いたします。イスラエルの子孫が信仰する彼の外に、神はあり ません。わたしは服従、帰依する者です。」』(ユーヌス章90節より)

虚偽のヴェールはすべて剥がれ落ち、彼はただ取るに足らない弱い存在でしかあ りませんでした。そして信仰を告白しただけでは足らず、彼は服従をも表明した のです。「わたしは服従、帰依する者です。」と。

しかしそれは役に立ちませんでした。アッラーへの背信や高慢な振舞いを重ねて きた今は、既に選択の時ではないのです。

『「何と、今(信仰するのか)。ちょっと前まであなたは反抗していた。結局あ なたは犯罪者の仲間であった。」』(ユーヌス章91節)

あなたに与えられた悔悟の時は終わり、あなたは破滅し、もはや救いはないの だ。しかしいずれあなたの体だけは魚たちにも食べられず、また潮の流れで人々 から離れていったりもせずに助けられる。あなたの後に続く者たちの徴となるた めに。

それは今エジプトにあり、ラムセスと呼ばれている。エジプトのファラオは、こ うしてエジプト人たちとイスラエルの民の目の前で死んでいきました。しかし彼 が死んでも、エジプト人とイスラエルの民の魂には、その影響が長く残りまし た。

長年に渡る征服と積み重なる卑屈さにより、人々の心から過去を消し去るのはと ても困難でした。ファラオはイスラエルの民を、アッラー以外のものに対して卑 しく身を低めることに慣れさせてしまいました。そのせいで彼らの精神は壊さ れ、その性質は腐敗してしまい、彼らはその強情さと無知とでムーサーを大いに 苦しめたのです。


執筆:ヌーラ アッダハマシ


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