預言者たち
 

【預言者ムーサーとハールーン その3】
 


杖と手にまつわる2つの奇跡の後、アッラーはムーサーに対して、ファラオの許へ行き、アッラーへの信仰を呼びかけるよう命じられました。

『「あなたはフィルアウン(ファラオ)のもとに行け。本当に彼は高慢非道である。」』(聖クルアーン・ターハー章24節)

しかしムーサーはファラオへの恐れを見せました。そして、以前エジプト人を殺してしまったので、自分が殺されるのを恐れているのだとアッラーに申し上げ、援助してくれる兄のハールーンを自分と一緒にエジプトへ送って下さるよう願いました。こうしてハールーンはムーサーの執り成しによって預言者となりました。

アッラーは、御自分が彼らと共におられてすべてを見聞なさり、ファラオがどんなに残酷で尊大でも、決して彼らを害することはできないのだと、ムーサーを安心させられました。アッラーはムーサーに、彼こそが勝者であるということをわからせたのです。

そこでムーサーはへりくだってアッラーに祈り、彼の胸を広げて事を容易になさり、アッラーへの信仰を呼びかけるための力を与えて下さるよう願いました。こうしてムーサーはファラオへの使徒として選ばれた後、家族の許へと戻りました。それから彼らを連れてエジプトへと向かったのです。

アッラーはムーサーに対して、ファラオの許へ行き、アッラーへの信仰を物静かに優しく呼びかけるよう命じられました。そしてアッラーは彼に、ファラオがアッラーへの信仰を持つことはないだろうと告げられ、それはムーサーがいずれファラオと彼の問題を放棄し、イスラエルの民の解放と彼らへの迫害の阻止に専念するためであるとお告げになって、このように仰せられました。

『だからあなたがた両人は行って、彼に言ってやるがいい。「本当にわたしたちは、あなたの主の使徒である。だからわたしたちと一緒にイスラエルの子孫たちを釈放し、彼らを苦しめてはならない。」』(聖クルアーン・ターハー章47節より)

これがムーサーに定められた重大な使命でした。そしてそのために先々数え切れないほどの苦難にぶつかることになるのでした。ファラオはイスラエルの民を迫害して奴隷化し、彼らに限界を超えた重労働を課していました。またイスラエルの女を生かしておき、男児は殺しました。そして自分が継いだエジプトの王権と同じく、イスラエルの民も自分の所有物であるかのごとく振舞っていたのです。

ムーサーはアッラーに命じられたとおり、ファラオに対して物静かに優しく向き合いました。そしてアッラーとその御慈悲や楽園について話し、アッラーが唯一の神であることや、彼への崇拝について語りました。

そして、ファラオは今エジプトを所有しているが、もし望むならば、楽園をも所有することができると教えました。そのために彼に課せられることは、アッラーを畏れることであると。

ファラオはムーサーの話を苛立ちながら嘲るように聞きました。彼はムーサーを、自分の尊位に挑む向こう見ずな男だと思ったのです。

彼は、「あなたは一体何が望みなのか?」とムーサーに訊きました。するとムーサーは、イスラエルの民を自分と共に帰してほしいと答えたのです。

その頼みにファラオは驚きました!そこでムーサーに対して、彼の昔のことや、自分が彼を養育したことなどを持ち出し始めたのです。

―幼い頃、あなたが私の許で受けた養育や恩恵に対する、これが報いなのか?今ここにこうしてやって来て我々の宗教に反抗し、自分がその城で育った王に戦いを挑んで、私以外の神への信仰を説くとは?!―

それからファラオはムーサーを怯えさせんとし、コプトの男への殺害事件を持ち出して言いました。

「それなのにあなたは酷いことをしでかしたものだ。(詩人たち章19節より) あなたの行為は醜悪であり、今日あなたが語る万有の主に対しても、あなたは恩を忘れる者の仲間(詩人たち章19節より)であった。当時あなたは万有の主のことなど語りはしなかった。今日ここで主張していることなど、かつて何一つ語りはしなかったではないか!?」

そこでムーサーはこう応えました。

「わたしが、それを行ったのは邪道に踏み迷っていた時のことである。(詩人たち章20節より) それを行った時、私は無知蒙昧な者であった。苛立ちが私をそうさせたのであって、主から与えられた英知によって今日私が識っている教えによるものではなかったのだ。それでわたしは恐ろしくなって、あなたがたから逃げ出した。するとアッラーは私に良きものを分け与えられ、英知を授けられて、私を使徒の一人となされたのである。」

ムーサーは更に話を続けました。

「あなたはイスラエルの子孫を奴隷としておきながら、それがわたしに好意を示す恩恵であるとでもいうのですか。(詩人たち章22節) 私があなたの屋敷で幼少期を過ごしたのは、あなたがイスラエルの民を奴隷化し、彼らの子供たちを殺したせいです。母が赤ん坊の私を箱に入れて海に投げ込み、あなたがそれを拾い、そのために私は両親の家ではなくてあなたの屋敷で養育されました。それがあなたの私への恩恵だとでも言うのですか。あなたのありがたいご好意だとでも言うのですか?!」

ここでファラオは口を挟みました。

『「万有の主とは何ですか?」』(詩人たち章23節)

そこでムーサーが、『「天と地、そしてその間のすべての有の主であられます。あなたがたがもし(これを)悟ったならば。」』(詩人たち章24節より)と言うと、ファラオは周りの者たちを振り返り、あざ笑って言いました。

『「あなたがたは聞きましたか?」』(詩人たち章25節より)

ムーサーはファラオの嘲笑を黙ってやり過ごし、こう言いました。

『「あなたがたの主、また昔からのあなたがたの祖先の主でもあられます。」』(詩人たち章26節より)

するとファラオはムーサーと一緒にやって来たイスラエルの民に言いました。

『「あなたがたに遣わされたこの使徒は、本当に愚か者です。」』(詩人たち章27節より)

そこでムーサーはファラオの中傷に耐えてこう続けました。

『「東と西、またその間にある万有の主であられます。あなたがたがもし理解するのであれば。」』(詩人たち章28節より)

ファラオは、知識を求めて純粋に、万有の主について、またムーサーとハールーンの主について尋ねたのではなく、ただ嘲笑しただけなのです。ムーサーはそれに対し、深遠かつ明瞭で確固たる言葉で答えました。

「わたしたちの主こそは、万有を創造し、一人一人に(姿や資質その他を)賦与され、更に導きを与える方である。(ターハー章50節) 彼はすべての種族、すべての世界を御創りになる創造主であられ、主自らが各々の性質や能力の中に賦与された様々な資質―それによってそれぞれがこの世の糧を得る―によってそれらすべてを導かれる御方であられる。彼はどんなときでも万有に目を向けられ、それについて全知であられる。彼はすべての状態において万有の証人であられるのです。」

それを受けてファラオは、嘲り、驕り高ぶってこう訊きました。

「それなら過ぎ去った世代の者はどうなるのか。(ターハー章51節より) あなたのその主に仕えなかった彼らは?」

そこでムーサーはこう答えました。

『「それに関する知識は、書冊に記されて主の御許にあります。わたしの主は、誤りを犯すこともなく、忘れることもありません。」』(ターハー章52節より)

つまり、アッラーは彼らがしたことをすべて数え上げられて書冊の中に収められ、そこに記録されないものは何もなく、アッラーがご存じないことなど何もないということです。

ファラオはこの警告が気に入らず、こう言いました。

『「あなたが、もし私以外に神を立てるならば、わたしは必ずあなたを囚人にするでしょう。」』(詩人たち章29節より)

ムーサーが、『「わたしがもし、明白な何物かを、あなたにもたらしてもですか。」』(詩人たち章30節より)と言うと、彼は、『「あなたの言うことが本当なら、それを示しなさい。」』(詩人たち章31節より)と言いました。

そこでムーサーは、城の広場で自分の杖を投げました。すると地面に触れるや否や、その杖は恐ろしい蛇に変身し、すばやく動き回りました。それから、彼が手を懐に入れて再び取り出すと、それは月のように白くなったのです。

それを見たファラオは周りの者に、「本当にこれは老練な魔術師である。彼はその魔術で、あなたがたをこの国から追い出そうとしている。それであなたがたはどうしようというのか。」と言いました。

すると彼らはファラオに、ムーサーの魔術に同じく魔術によって応じ、ムーサーと彼の兄に挑戦するため、魔術師たちを招集するよう提案しました。

そこでファラオはその日時を指定しました。それは祭の日で、民衆の準備が始まりました。ファラオに仕える者たちは、約束の時刻に遅れないで城に集まるよう、民衆に呼びかけたのです。エジプトの魔術師たちがイスラエル人のムーサーを打ち負かすのを、彼らがしっかりと目にするように。

一方、魔術師たちはと言えば、ムーサーを打ち負かした時の褒美について確認しようと、ファラオの許へ行きました。そこでファラオは彼らに褒美以上のものを約束しました。ムーサーに勝てば、魔術師たちを自分の側近にすると約束したのです。彼に言わせれば王であり神でもある自分の側近に。

そして、人々が集い、ファラオが見守る対決の広場に、ムーサーと兄のハールーン、それから魔術を成功させるための道具を手にした魔術師たちがやって来ました。魔術師たちはみな自分たちの勝利を確信し、自信を持っていたので、まずはムーサーに順番を選ばせました。

『「・・・あなたが投げるか、それとも私たちが先に投げようか。」』(ターハー章65節より)

しかし一方のムーサーも自信を持っており、彼らの挑戦を取るに足らないものと思っていました。そこでムーサーは、「いや、あなたがたが先に投げなさい。」と言い、魔術師たちはファラオの威光にかけて、自分たちの杖や縄を投げました。

『そこで彼らは、縄と杖を投げて言った。「フィルアウン(ファラオ)の御威光にかけて、わたしたちは必ず勝利者になろう。」』(詩人たち章44節より)

魔術師たちが杖や縄を投げると、突然そこは蛇で一杯になりました。

『・・・人々の目を惑わし、彼らを恐れさせ、大魔術を演出した。』(聖クルアーン・高壁章116節より)

ムーサーは魔術師たちの縄や杖を見ると恐れを感じましたが、アッラーは彼にこう仰せられました。

『「恐れるには及ばない。本当にあなたが上手である。あなたの右手にあるものを投げなさい。彼が作ったものを呑み込め。魔術師の誤魔化しに過ぎない。魔術師は何処から来ても、(何事も)成功しない。」』(ターハー章68〜69節より)

それでムーサーの心は安らぎ、杖を持ち上げて投げました。するとムーサーの杖が地面に触れるや否や大きな奇跡が起こり、魔術師たちが作ったものを、一匹の大きな蛇がすべて呑み込んでしまったのです。そこで魔術師たちは、伏してサジダし、「わたしたちは、ムーサーとハールーンの主を信仰します。」と言いました。

するとファラオは驚き、『「わたしが許さない中に、彼を信じるのか。」』(ターハー章71節より)と詰問しました。真実へと帰るのに、彼らはファラオに許しを得なければならないかのように。そして彼は更に驕り高ぶってこう言いました。

「・・・確かにこれはあなたがたの町で企んだ陰謀で、ここの民を追い出そうとするのだ。(高壁章123節より) 彼が今日あなた方に勝ったのはあなた方の相談と納得の末のことに違いない。」

そしてまた、『「だがあなたがたはやがて知るであろう。」』(高壁章123節より)と言い、このように脅しました。

『「・・・あなたがたの両手と両足を互い違いに切断して、ナツメヤシの幹に貼り付けにするであろう。あなたがたはどちらの懲罰がより厳重で、永続するか必ず分るであろう。」』(ターハー章71節)

そこで魔術師たちは次のように答えました。

『「わたしたちは、わたしたちに示された明白な印、またわたしたちを創造なされた彼以上にあなたを重んじることは不可能です。それであなたの決定されることを実施してください。だがあなたは、現世の生活においてだけ、判決なさるに過ぎません。本当にわたしたちが主を信仰するのは、わたしたちの過ちの御赦しを請い、またあなたが無理じいでした魔術に対して、御赦しを請うためであります。アッラーは至善にして永久に生きられる方であられます。」』(ターハー章72〜73節)

魔術について誰よりも熟知する彼らは、ムーサーがなしたことは決して魔術ではなく、また魔術師のなし得ないことだということに気付いたのでした。


執筆:ヌーラ アッダハマシ


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