預言者たち
 

【預言者ユースフ その4】
 

ユースフの兄弟たちはエジプトへ行きました。

『さてかれらがユースフの許に行った時、かれはその弟を規しく迎えて言った。「わたしはあなたの兄です。今までかれら(兄たち)がしてきたことに、心を悩ましてはならない。」』(ユースフ章69節)

兄弟たちはこの高官がユースフだとは全く気がついていませんでした。そして出発の時がやってくるとユースフは部下の者たちに王の黄金の計量カップを盗んで来させ、弟の荷物の中に隠して入れて置くようにと命じました。このカップは当時、純金と同様の価値を持ち、秤と同等の価値があったのでした。こうして兄弟たちは旅支度を済ませ、年少の弟も連れ、首都の門は閉じられたのでした。

『やがて、ある者が呼びかけた。「隊商よ、あなたがたは確かに泥棒です。」』(ユースフ章70節)

兵士の叫びはすべての隊商隊の足止めを意味していました。人々が近寄り、そしてユースフの兄弟たちも近寄って行き尋ねました。

『「あなたがたの何がなくなりましたか。」』(ユースフ章71節)

すると兵士たちは言いました。

『「わたしたちは、王様の盃をなくしたのです。それを持って来た者にはラクダの一頭分の荷(を与える)でしょう。わたしがその保証人です。」』(ユースフ章72節)

すると兄弟たちは言いました。

『「アッラーにかけて誓います。わたしたちはこの国で、悪事を働く為に来たのではないことを、あなたがたは既に御存じです。わたしたちは、盗みは致しません。」』(ユースフ章73節)

すると兵士たちは言いました。

『「あなたがたが嘘つきであったら、その(盗みの)処罰は何としようか。」』(ユースフ章74節)

すると兄たちは「私たちの律法では盗みを働いた者はその持ち主の奴隷とみなされます。」と言いました。兵士たちは「それでは私たちはお前たちに関してお前たちの律法を適用させよう。エジプトの律法である盗人を牢屋に入れるという規則を適用させずに。」と言いました。これらの会話はすべてユースフの目の前で、ユースフが聞いている前で行われました。

『それでかれ(ユースフ)は、弟の袋(の検査)をする前に、かれらの袋を(調べ)始めた。』(ユースフ章76節)

身の安全を確保した兄弟たちは安堵しました。残すは年少の弟だけとなり、盃は彼の積荷から出てきました。こうして約束どおりユースフは兵士たちに命じ、弟を自分の奴隷として取るよう命じました。そしてユースフの目の前で自分たちの身の安全を確保した兄弟たちが今度はユースフの同父母の弟に対しての非難を始めるという酷い光景が繰り広げられました。

『かれらは言った。「もしかれが盗んだとすれば、かれの兄も以前確かに盗みをしました。」』(ユースフ章77節)

ユースフはこの言葉を耳にし、深い悲しみを覚えました。しかしこれらのことを自分の心に秘め、外には漏さず、独り言のように言いました。

『「事情はあなたがたに不利である。アッラーはあなたがたの語る真実を最も能く知っておられる。」』(ユースフ章77節)

兄弟たちはここで父ヤアクーブのことを、そして彼との約束を思い出しました。すると彼らはユースフに慈悲を請い始めたのです。

『かれらは言った。「申し上げますが、かれには大変年老いた父親があります。それでかれの代りに、わたしたちの1人を拘留して下さい。御見うけしたところ、あなたは本当に善い行いをなさる方でございます。」』(ユースフ章78節)

するとユースフは言いました。「私たちがどうしてその者のもとに盃があった者を放置し、他の者を替わりに捕らえると言うのだ?それは不義である。そして私たちはそのような不義は行わないのだ。」
そこで兄弟たちは協議しました。するとかれらの中の最年長の者が「あなたがたは、父がアッラーに誓いをたて、弟を必ず戻すようにと約束させたことを忘れたのか?」と言いました。同様に以前ユースフのことに就いての誤りを思い出させました。そして決定を下しました。そして父が自分を許すか、またアッラーが御裁き下さるまで、自分は決してエジプトを出ないと明らかにしました。そして弟たちに父のところへ戻り、父の年少の息子が盗みを働き、そのため奴隷として捕らえられたと伝えるよう求めました。それは彼らが知らず目にしていない所で起こったことだったと伝えるよう、そしてもし父が弟たちの言葉に疑いを抱くようであれば、エジプトの民たちに、そして他の隊商隊のものたちに事の次第を尋ねるよう求めました。

ヤアクーブの息子たちは年長の兄の言いつけどおりヤアクーブに起こったことを話しました。するとヤアクーブは悲しみと忍耐で溢れ、涙を湛えて言いました。

『「いや嘘である。あなたがた自身のため事件を工夫して作ったに過ぎない。だが耐え忍ぶこそ(わたしには)美徳である。或はアッラーが、かれらを皆わたしに御送りになるかもしれない。かれは本当に全知にして英明であられる。」(ユースフ章83節)

この言葉は彼がユースフを失った時と同じでしたが、今回はアッラーがユースフとその弟を自分のもとへ戻してくださるだろう希望が含まれていました。

『かれはかれらから離れて言った。「ああ、わたしはユースフのことを思うと、悲しくてならない。」』(ユースフ章84節)

ヤアクーブは決して人前では泣きませんでした。彼の涙と不平はアッラーだけがご存知でした。それから息子たちは父の目が見えなくなってしまったことに気付き、彼らは父がユースフのために泣いているのだと思い込み言いました。

『「アッラーにかけて申し上げます。あなたはユースフを思うことを止めなければ、重態に陥、或は死んでしまいます。」かれ(ヤアクーブ)は言った。「わたしは只アッラーに対し、わが悲嘆と苦悩とを訴えている丈である。わたしは、あなたがたが知らないことを、アッラーから教わっている。」』(ユースフ章85−86節)

ヤアクーブは彼の涙の本当の訳を告げました。彼はアッラーからの知識によりユースフが自分に告げられたように死んではおらず、まだ生きているということを感じていたのです。
そして息子たちに出掛けて行ってユースフとその弟の消息を尋ねるよう命じました。これはヤアクーブがアッラーの情け深い御恵みに決して絶望していなかったことを示しています。

息子たちは再びエジプトに向けて旅立ちました。彼らの経済状況と精神状態はボロボロでした。貧困・父の悲しみなどの災難が彼らを取り囲んでいたのです。かれらの強さは完全になくなってしまいました。そして価値のほとんどない商品を抱えてユースフに会うと、彼に自分たちに対して施してくれるよう、また施す者にアッラーは十分に報われると頼んだのでした。

するとユースフは彼らに語り掛けました。

『彼は言った。「あなたがたが無道の余り、ユースフとその弟にどんなことをしたか知っているのか。」かれらは驚いて言った。「すると本当にあなたは、ユースフなのですか。」かれは言った。「わたしはユースフです。これはわたしの弟です。アッラーは確かにわたしたちに恵み深くあられる。本当に主を畏れ、堅忍であるならば、アッラーは決して善行の徒への報奨を、虚しくなされない。」かれらは言った。「アッラーにかけて。本当にアッラーはわたしたちの上に、あなたを御引き立てなされた。わたしたちは本当に罪深い者です。」』
(ユースフ章89−91節)

歳月が経ち、彼らの策略は崩れ落ちました。アッラーの計らいは素晴らしいのです。彼らがユースフを井戸に放り込んだことがユースフに権力と支配を与え、ユースフを父から遠ざけたことが父の更なるユースフへの愛を駆り立ててしまったのです。そして今ここで彼らはユースフに慈悲を求めたのです。彼らはユースフたちが自分たちに復讐するかもしれないと思いました。それを感じ取ったユースフは彼らを安心させるために言いました。

『「今日あなたがたを、(取り立てて)咎めることはありません。アッラーはあなたがたを御赦しになるでしょう。かれは慈悲深き御方の中でも最も優れた慈悲深き御方であられます。」』(ユースフ章92節)

ユースフが言葉を終えると彼は父がユースフのことを悲しむあまり目が見えなくなったことを知り驚きました。ユースフは彼のシャツを脱ぎ、彼らに与えて言いました。

『「あなたがたはわたしのこの下着を持って(帰り)、わたしの父の顔に投げかけなさい。かれは眼が見えるようになろう。それからあなたがたは、家族揃ってわたしの処に来なさい。」』(ユースフ章93節)

隊商はエジプトを出発しました。

その頃ヤアクーブは周りの者たちに「わたしは確かにユースフの匂を嗅いだ。だがあなたがたは、老衰のせいだと思うであろう」と言っていました。そして、周りの者たちも「アッラーにかけて、全くそれはあなたの(いつもの)老いの迷いです。」と言っていたのです。

しかし吉報を伝える者が帰って来て、シャツをヤアクーブの顔に投げかけると、彼は視力を回復したのでした。するとヤアクーブは言いました。

『「わたしはあなたがたに言わなかったか。あなたがたが知らないことを、わたしはアッラーから(の啓示で)知っている。」』(ユースフ章96節)

息子たちは罪を認め、父に自分たちのために、罪の御放しを祈ってくれるよう頼みました。

ユースフの物語は彼が見た夢から始まりました。彼の夢の解釈について次のようにクルアーンは述べています。

『やがてかれらがユースフの許に来た時、かれは両親を親しく迎えて言った。「もしアッラーが御望みなら、安らかにエジプトに御入りなさい。」かれは両親を高座に上らせた。すると一同はかれにひれ伏した。するとかれは言った。「わたしの父よ、これが往年のわたしの夢の解釈です。わが主は、それを真実になさいました。本当にかれは、わたしに恩寵を与え、年獄からわたしを御出しになり、また悪魔が、わたしと兄弟との間に微妙な敵意をかきたてた後、砂漠からあなたがたを連れて来られたのであります。わが主は、御望みの者には情け深くあられます。本当にかれは全知にして英明であられます。」』(ユースフ章99−100節)

ユースフの心情と実現した彼の夢について私たちも思いを馳せてみましょう。ユースフは彼の主にこう祈りました。

『「主よ、あなたはわたしに権能を授けられ、また出来事の解釈を御教えになりました。天と地の創造の主よ、あなたは現世と来世でのわたしの守護者です。あなたは、わたしをムスリムとして死なせ、正義の徒の中に加えて下さい。」』(ユースフ章101節)


執筆:ヌーラ アッダハマシ


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