クウェイトで考えた
 

【「責任」の所在】


女子寮に入るとき、山のような書類にサインさせられる。それらの中には、なぜ か大使館が署名・捺印しなければならないものがある。その内容は「大使館が ○○のクウェイト滞在について責任を持つ(○○にはクウェイト政府奨学生の名 前が入る)」といったものだ。実はこの書類に大使館の署名・捺印がないと、休 日は寮のドアから一歩も外に出られなくなる ところがすごい。それどころか、平 日の外出にすらアブラ(寮母さん)から文句を付けられる。当然ながら冗談じゃ ないと思い、他の留学生と同様に私は日本大使館に署名・捺印を頼んだが、なん と拒否された。その理由が「君は日本の文部省の奨学生じゃないので、日本大使館と関係ないから」というもので、しばし唖然とした。 ご苦労なことに、彼らは後日そのことをわざわざ大学に伝えにいったという。もちろん伝えにいった「だけ」なので、女子寮の制度はなんら変わらなかった。日本と同じく拒否したのはトルコとアメリカで、他のアジア諸国、東・中欧の大使館はサインしていたようだ。結局、「拒否組」はランゲージセンター所長に事情を説明し、彼に署名・捺印してもらった(しかし、帰国直前にこの署名・捺印がいきなり無効となった。 その理由はわからずじまい。)

さて、この問題はどう解釈すべきなのだろう? 日本大使館には「日本」の考え 方があるし、女子寮はイスラームを背景とした「女子寮」の考え方がある。問題 は、お互いの考え方をぶつけて終わり、何の結果も得られなかったことだ。どの 国の大使館だって、必ずしもこのようなバカバカしい書類を歓迎しているとは思 えない。だから、日本大使館は他の大使館と一緒にクウェイト大学へ抗議すれば よかっただろう(実際、過去にそのような動きはあったとのこと)。女子寮も、 それぞれ国の文化の違いを考えて、個別に対応すべきだったと思う。ただし、以 前滞在していた日本人留学生たちが、このような署名・捺印を適当に偽造してい たということを後で聞いて、思わずニヤリとしてしまった(もっともこれが寮に バレていたら、日本向けの奨学金がなくなっていたかもしれない)。このような 状況で生き抜くには、私の「したたかさ」も必要だったのである。

最近、アラブ人の随行通訳をする機会があった。正直なところ、相当おめでた かったこの人物がたびたび口にしたのが「おまえはオレに対して責任を持ってくれるんだろ? え?」というセリフ。冗談で言っているのだろうと思い、2回目 まではとりあえずニッコリとしておいた。しかし3回目に言われたときは本気だ とわかったので、「はあ? 私、ただの通訳なんだけれど。なんでアンタの責任 をとらなくちゃならないわけ?」と、はっきり言い返しておいた。いい年をした オッチャンでも責任、責任とわめくこの感覚は、正直なところまったく理解でき ない。


<今週のはーみシュ>
・このようなバカバカしい問題に悩まされるのは女子のみでした。男子寮にはこ のような書類はもちろん、門限等もなかったと聞いています。そのかわりに、女 子寮に比べて男子寮の設備やサービスは良くないらしいですが。

・夏休みや冬休みに一時帰国する人もいるかと思います。当時は、このようなと きも大使館に署名・捺印を頼む必要がありました。

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写真は「砂漠のひとコブらくだ」。ラクダレースを見に行こうと2時間ぐらい砂漠をグルグルまわりました。結局、どこかのおじさんに「今日は休みだよ」と言われて諦めました。…本文とまったく関係がなくてすみません。


執筆:門屋 由紀
アラブ イスラーム学院 研究員

                

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