古代文明の恩恵
古代オリエント人が現代のわれわれに残した数多い遺産の中で、最大の恩恵は、 文字の発明である。
シュメール人が粘土に葦のペンで書いた楔形文字人類最古の文字であることは前 に紹介した。
このメソポタミアの文字にヒントをえたといわれている古代エジプト文字は、楔 形文字や漢字と同様に絵文字から発達したものである。このエジプト文字には3 通りの書体があり、原形に近い象形文字の聖刻書体(ヒエログラフ)がその後、 神官書体、民衆書体を生み、表意文字、表音文字をも発展させていった。
このエジプトの表音文字をシナイ半島の石切場で使っていたフェニキア人が、こ れをさらに発音記号のように簡略化し、ついに22のアルファベット文字にまと めあげた。
このアルファベットがスペイン、カルタゴ、シシリアといったフェニキアの植民 地でも使われるようになり、ギリシャ文字からラテン文字、ロシア文字に発展、 またオリエント世界から中国まで用いられていたシリア語を媒介としてアラビア 文字、インドのカロスティ文字、蒙古文字系にいたるまで拡がった。
なお、古代エジプト文字を書きとめる材料は、当時のナイル川に群生していたと いうパピルスをつなぎ合わせて乾かし紙状にしたもので、ちょうどメソポタミア の楔形文字にたいする粘土版の役目を果していた。今日のペーパーの語原はこの パピルスである。
筆者:阿部政雄
転載:「アラブ案内」グラフ社(1980年発行)
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