アラブ青年の日記
 

【世界一おいしいビール】
 

1999年の夏のことでした。早稲田大学経営システム工学科の夏季特別実施プログラムに参加して、静岡県のある製鉄工場で二週間ぐらい分析や調査をすることになりました。

ガンダムのようなアニメを見てきた私の頭の中では、日本の工場と言えばロボットが沢山並んでいて、ボタン操作以外に人間は何もしなくてもいいところだと思い込んでいました。

しかしその工場に入ると、何と日本人のおじさん方が一生懸命機械に乗って、鉄鋼を作っていたのです。作業者の中で、60歳を超えた方々もいたので、大変ショックを受けました。最初は、もしこのおじさんに息子たちがいるなら、何と冷たい人たちだろうと思いました。この年まで自分のお父さんに仕事をさせるなんて信じられませんでした。

サウディでは息子たちが働ける場合、両親には引退してもらい、面倒を見るのが義務付けられています。そのような社会から来た私には、60歳のおじさんが働いている姿は非常に悲しかったのです。

日が経つにつれておじさんと仲よくなって、話をするようになりました。彼によると、青森県では60歳を超えると引退をしなければならないから、年をとって仕事させてくれるこの工場にやってきたそうです。何もしないまま生きていくのが耐えられないから…。

工場では、どんな機械よりも精密に鉄鋼を切るおじさんたちに驚かされました。戦後、日本を焼け野原の状況から今のような先進国にしたのは、技術力よりも経済力よりも、日本人のその勤勉さとチャレンジ精神に違いないと感じました。

二週間があっという間にたち、そして最後の日に、おじさんに挨拶をしょうと思ったら、こう言われました。「簡単な仕事は誰にもできる。しかし、大変な仕事は大きな希望を持った人にしかできない。何もしないで自分のところに持ってきたビールはどんなに高くてもおいしくない。一日頑張って、汗をかいた後に飲むビールが世界一おいしいビールだ!」。私はイスラーム教徒だから、今までビールを飲んだことはなかったし、これからも飲まないだろうと思いますが、このおじさんが飲んでいるビールはどんなにおいしいのか、わかったような気がしました。

執筆:ブカーリ イサム
早稲田大学 大学院理工学研究科
アラブ・イスラーム学院文化・広報担当

 

 

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