アラブとの架け橋
 

エジプト・アラブ共和国大使館 文化・教育・科学部 文化参事官
【カラム・ハリール氏 インタビュー 1】


カラム・ハリール氏


 カラム・ハリール氏は、30年前に日本語を学び始め、日本の大学で博士号を 取得。ご専門は日本の近・現代文学で、エジプトとサウジアラビアの大学で長年 教鞭をとられました。現在はエジプト・アラブ共和国大使館 文化・教育・科学 部に文化参事官として日本に赴任されています。

 文化参事官として、エジプト文化紹介のための講演会等様々なイベントを企画 運営され、またエジプトからの留学生ケアもされています。今年は「エジプトと 日本との間の文化協定」締結50周年ということで、特にイベントが盛んです。

 今回は、氏と日本語、また文学を中心にお話を伺いました。


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Q1.日本との出会いについてお聞かせ下さい
A:
 私が初めて日本語に触れたのは、中学校の教科書にあった「日本の乙女」とい う詩でした。これは、「ナイルの詩人」と呼ばれたハーフィズ・イブラヒームに より日露戦争開戦直後の1904年に発表されたものです。私はこの美しい詩を 暗記するまで何度も口ずさみながら、何故この詩人は恋人を、見たこともない日 本人少女に喩えたのだろう、と考えていました。また同時期にアフマド・シャウ キーの作品にも触れ、この頃から私は日本に魅せられてしまったのです。

 1974年にカイロ大学で日本語学科が新設されました。これは中近東で初め てのことでした。私はカイロ大学英語学科に入学しましたが、日本語学科がある ことを知り、2ヶ月で英語学科を辞め、日本語学科に入りなおしました。英語や フランス語が主流であった当時に、日本語を選択することは、大変な思い切りを 必要としました。3期生である私の同級生は20人程度でした。

 卒業後日本政府の奨学金を得て筑波大学で7年間学び、その後カイロ大学とサ ウジアラビアのキングサウド大学で日本文学と日本語を教え、2005年に再度 日本に来ました。


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Q2. 現在アラブ諸国の大学教科書として使用されている「アラブ人のための日 本語」を共著されていますが、作成に於いて特に気を配ったことなどありました らお聞かせ下さい。
A:
 これは、アラビア語をベースにした初めての本格的な教科書です。日本文化を 紹介する記述や、アラブ文化を日本語で紹介できるように留意しました。今まで の教材はそのような点が考慮されていませんでした。外国語を学ぶ際にその国の 文化を理解することが非常に大切です。このふたつは密接な関係です。

 また、正確な日本語を話すために、英語を媒介語とせず、発音をアラビア語表 記しないこととしました。

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アラブ人のための日本語
アラブ人のための日本語

中世文学について:

 1990年に出版された「日本中世における夢概念の系譜と継承」では、夢の 諸相や特徴を和歌・日記を中心に、時代的背景・時代精神の関わりから究明され ています。その範囲は広く、そして深いものです。また、日本人の夢とアラブ人 の夢について言及した初めての研究書です。

日本中世における夢概念の系譜と継承
日本中世における夢概念の系譜と継承

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Q3. 和歌・漢文は、私たち日本人にとっても解読しづらいものです。加えて日 本人独特の神仏に対する信仰への理解と仏教の知識を必要とします。これらをど のように習得されたのでしょうか。
A:
 この本は、博士論文の一部なのですが、完成に10年かかりました。まず、古 文書を読むことがとても大変でした。学友に教えてもらったり、「和歌を詠む 会」「文書を解読する会」など、様々な研究会に参加して学んだのですが、その ような基盤作りに5年ほど費やしました。


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Q4. 無常観や死生観、また怨霊などアラブの思想と大きく異なることについて は、どのように感じられましたか?
A:
 もちろん大変な違和感がありました。大学の教官が三島由紀夫とも親交のあっ た松村剛氏でしたので日本人の死生観について深く教えていただきました。また 師の著作「死の日本文学史」でも学びました。


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Q5. “もののあはれ”や“わび、さび”に通じる情感はアラブではありますか? アラビア語の中にそういう言葉もありますか?
A:
 同じような情感や言葉はありますが、表現はかなり違います。日本ではそのよ うなことは、死生観に通じていますが、アラブにはそれがないのです。


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Q6. 和歌は、言葉をそぎ落として凝縮させています。一方アラビア語は美しい 言葉を多重しています。和歌の表現を物足りないと感じませんでしたか? ま た、他のアラブ人はどのように感じているのでしょうか?
A:
 初めは、和歌が何を言っているのか言いたいのか、理解できませんでした。例 えば、“花”といえば花のことではなく桜を指していたり、桜と恋人の関連な ど、文学的な背景が必要だからです。私は百人一首をアラビア語訳したのです が、まだ出版していません。これを文学者であるエジプトの友人に見せました が、彼の反応は「それで??」「なにが言いたいの?」でした。

 言葉が凝縮されていることには、物足りなさは感じますが、読むたびに新しい 発見があります。しかし和歌を、アラビア語訳することは難しいです。そのまま 訳すだけでは何も伝えられないと思います。


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つづく 


インタビュアー:中易誠子
アラブ イスラーム学院 学生

(2007年5月22日更新)

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