アラブ マイ ラブ
 

【我が辞書にワリカンの一文字は無し(2)】
 

〜 前号からの続き 〜

ある夜彼ともう1人のアラブ人と3人で六本木のファミレスに行った。
一応食事前に「どうか今回は自分に(あなた方をご馳走するという)栄誉を与えてくれないか?」と許可を請うが、無論軽々しくはねのけられる。しかしこの夜の僕は一味違った。モーリタニア、サウジ帰りで「アラブの気前のよさ」を沢山味わわされてきた僕は、このままではいけない、と思っていた。いつも彼らにお世話になってばっかりの自分に、恥ずかしさを感じた。しかもここは日本、いわば僕のホームタウンである。日本でお客さん扱いされる屈辱は避けたい。日本人代表としても、そしてイスラーム教徒としても、この「遠方からのお客さんたち」にここでご馳走するのは僕でなければいけなかった。そしてこの夜、彼らに対する「リベンジ」を遂行するため、僕はある作戦を練っていたのだよ…フフフ。

さてその作戦とは?
会計時の争いに入る前に奇襲攻撃をしかけ、有無を言わせず金を払ってしまうことである。つまり食事を終えて立ち上がる前に秘密裏に会計を済ませてしまうことだ。この戦法は事実今まで他の場においてかなりの功を奏していた。その後からでさえも彼はきっと攻めてくるに決まっているが、払ってしまったモン勝ちである。後は何とか彼の追撃をしのいで逃げてしまえばいい。

そうして食事も終わりにさしかかった頃、僕はドリンクバーに行くふりをして席を離れた。ドリンクバーの脇にキャッシャーがある。僕たちの席はそこから一番遠い所にあり、しかも柱が死角を作り出してくれている。こっそり取ってきた伝票を手に秘密裏に会計に入る僕。ひそひそ声で「急いで」と会計を頼む自分が、我ながら挙動不審である。しめしめ今回はうまく行った、と思わずほくそえまずにはいられない僕。尚更挙動不審である。従業員も何なんだろうこの人、みたいな目で見ている。

と、向こうからツカツカと早足でやって来るアゴヒゲの大男。ギェーーーーッツ!!!心の中で叫んだ。まるで見えるはずのないものを見たような、ホラー映画的スリルを感じた。み・見つかってしまった…!どうして感付いたんだろう?近づいてくる彼の歩み。彼の表情は硬くこわばっている。こわすぎる。

「は・早くお願いします!」と従業員にお金をにぎらせる僕。焦っていたため、心の中では「ノロノロしねえで早くしやがれ!」と言いたい気分だった。従業員がお金を受け取るが早いか否か、彼の手が伸びてきてそれをムンズとつかむ。「何やってる?」静かにそう言う彼の顔はちょっと凄みがあって、恐い。若い男の従業員も何事か、こいつは一体何モンなんだと言わんばかりにビビっている。お金を僕につき返し、代わりに自分の財布から抜いたお金を従業員に渡す彼。ここでいつものひと悶着。

「いや、今回は許してくれ。払わせてくれ。」
「(アッラーに)誓ったんだ。」
「今回だけ。」
「誓ったんだっつうの。」

見知らぬ言葉で小競り合う2人を前に、従業員も戸惑っている様子。アラブ人が会計するときに付き物の、従業員泣かせの光景。会計する前にどっちが払うか位ちゃんと決めておけ、と言いたいところか。しかしこうなるともう彼にはかなわないのは目に見えている。文字通り暖簾に腕押し、彼は絶対引き下がらない。ついにまた僕が敗北の憂き目を見ることとなった。こうして僕の計画はあえなく挫折したのだった。


執筆:サイード佐藤
アラブ イスラーム学院 卒業生


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