アラブ マイ ラブ
 

【すでに主の定めたるもの(2)】
 

東京に僕の知り合いのサウジ人がいる。その息子Sは今年6歳。約2年前に日本に来て、今は日本の幼稚園に通っている。
このS、生まれつき非常に活発で、物怖じせず、凄いきかん坊だった。いや今でもそうなのだが、前よりは少しはマシになったかも知れない。とにかくうるさい。言うことを聴かない。放っておくとどこにでも行ってしまう。恐いもの知らず。子憎たらしいところはあるが、それでもまあかわいい。

今こうして書いていて、2年前彼の両親がデパートに買い物に行くのに付き合い、その間ゲームセンターにてこのSとその妹の子守をしたときのことを思い出した。辛い思い出だった…。

Sは次から次へと違うゲームにチャレンジするが、決して一所に落ち着かず、「次はこっちだ!」とせわしなく動く。一方妹はとてもおっとりしたタイプなので、Sのペースに任せていると置いてけぼりになってしまう。彼は常に自己チューで、妹のことなんぞ知ったことではない。それで少し妹の方を気遣うと、このガキ、いやお子様はすぐ行方不明になってしまう。3歳の妹は機動力がないので、とりあえず彼女を待たせて奴を探しに行くと、どこか遠くでSの「ギャハハーーッ!!」という高笑いが。なんとゲーセンの外の遥か向こうで他の大人の買い物客をかまっている!奴を引き連れて妹の元に戻る。Sは「次これ、次これ!早くカネ入れろ!」とせかす割に、すぐ目移りして中途半端にする。妹にもゲームを楽しませようとすると、奴がいなくなる。妹を置いて奴を探しに行く。以下繰り返し。この2人の間で翻弄され続けるのは堪らないので、Sを子供用トランポリンに放り込む作戦を思いついた。こうすればちょっとは落ちつける。まだそこで遊ぶ基準の年齢と大きさに達していなかったが、従業員のさえぎるのも聞かず、Sはその中に自ら飛び込んだ。妹も兄がボールでいっぱいのトランポリンの中で楽しそうにしているのを見て、入りたがった。3歳でまだ随分小さいが、入れる。彼女はSの容赦ない攻撃を受けて倒れたまま起き上がれなくなり、何度か僕が救助に入らなければならなかった。僕は外からSにボールをぶつけたりしてストレス解消の意味も込めて自分も遊び、そのまま何とか彼らをトランポリンの中にとどめることに成功した。

さて先日、このSと彼の父親と一緒に芝浦にある外国人用の歯医者さんへ行った。
Sは僕のことを呼び捨てではなく「アンモ(おじさん)」付けで呼ぶようにはなっていたものの、まだまだやんちゃだった。今日は抜歯するということで、僕はひそかにこのきかん坊の泣き目を見ることを期待していた。歯医者で抜歯を受けるのにいつものふてぶてしさではいられないだろう。S、生意気言ってられるのも今のうちだぞ。

しかしS、歯医者の中でもいつも通りはしゃいでいる。順番が来て診療台の上に乗っても、堂々としたもの。恐れる様子もなく、精一杯大きく口を開ける。「ああこの歯、抜かないとダメねえ。麻酔打って抜いちゃうからねえ。」外国人のお医者さんがSの歯茎に麻酔注射をする。Sは暴れることもなく、痛がる様子も見せずジッとしている。少しビビッているのは確かだが、カーッと大きく口を開き、目もしっかり見開いている。もう好きなようにしやがれこん畜生、とハラをくくった感じである。この肝っ玉の大きさといさぎの良さに、お医者さんも看護婦さんも「強いねえ、強いねえ!」と感銘を受けていた。「ホント強いよ、お父さんより強い。」とお医者さんがオヤジギャグをかましたが、父親は日本語を解さないので通じず。続いて虫歯の抜歯。「大丈夫、抜いた歯は後でちゃんと返してあげるからねえ。」とまたオヤジギャグ。Sは余り日本語を理解しないので、これまた通じず。金具でゴリゴリやった後、力任せに引っぱる。なかなか抜けず、ちょっとした荒療治だ。振動で頭が揺れる。でもSは時々痛そうな表情を垣間見せるものの、決して手を挙げたり弱音を見せたりはしない。うーん、こいつは男だ。普段はチャランポランだけれど、ここぞという時には我慢強さを発揮するんだな。「ホントに強いねえ、でももうちょっとだからねえ。これが終わったら次はお兄ちゃん(僕のこと)の番だからねえ。」とお医者さんが再三のオヤジギャグ。「勘弁してください。」と僕。良かったね、お医者さん。ギャグがやっと通じて。

結局Sは最後まで平然とした様子でこの手術を乗り切った。泣く様子なんて微塵もない。あの感じだったら麻酔抜きでも大丈夫だったんじゃないか、と思うくらいだ。でも流石にちょっと憔悴した様子。麻酔が残ってまだよく動かない口を真一文字に結んで、珍しくちょっとムスーッとしている。口には出さないが、「こいつら、こんな痛い所に連れてきやがって。」とでも思っていたのだろうか。父親が「S、言うこと聴かないとまたここに連れてくるからな。」と冗談を言うと、「うるさい。」と口答えをした。しかしこの日僕はSを見直した。まだ6歳のSだが、彼の中にある男を見せてもらった思いだ。これがアラブの男魂なのだろうか?

その日一日は安静にするようにと言われていたはずだが、その数時間後、今度はSたっての願いで空手教室へ。もうすっかりピンピンしてやがる。入会のため初めての見学だったのだが、空手教室独特の張り詰めた厳格な雰囲気の中でもSは全く臆するところがなかった。そして今日から稽古に混ざるのは出来ないことを知り、ものすごい駄々をこねる程。やっぱりそうだ。アラブは子供の頃からアラブなのである。


執筆:サイード佐藤
アラブ イスラーム学院 卒業生


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