アラブとの30年 その2
 

【目には目を】
 

アラブは「目には目を」の民族性だからね、仕返しがあるから怖いと日本人は言います。

その正しい意味は、もし技術者が回転扉を設計したとしましょう。そして事故が起きました。利用者に被害が出て、原因がその設計にあることが判明しました。死亡事故が起きた場合は、設計者の命を以って償うべし、ということです。設計者は専門家として利用者の立場を考え、知識を駆使し、安全を確保する義務があることを教えています。製造者は設計者の指示のとおりに製作する義務があります。製造者の不履行が事故の原因である場合は、製造者が責任を負います。

それでも、人間は間違いを起こします。その場合、当時者が事実を開示し、責任者が自分の非をまず認めて、償いの気持ちを率直に表すならば、アラブの相手方も寛大にことを済ますことも可能となります。アラブでは人間は間違い、神はその間違いを許すことが社会の通念です。但し、事実を捻じ曲げ、真実を己の利益のために偽り、ただその場だけの問題解決のために代償の提示をしても、問題は解決されません。むしろその姑息なやり方は、神の怒りを招きます。神の助けなしでは群衆の怒りは収まりません。政府も、社会も、その群集の行為を押さえることはできません。

「目には目を」もって償うことの意味は、相手の持つ権利に対し、自分が義務を負っていることを明確にした原則です。よく欧米人が例え話で持ち出す事があります。アラブ人の子供を交通事故で殺してしまった。被害者の父親は、償いは要らないから、あなたの子供を殺させてくれと言った。だから人権が尊重されない報復の社会だと。それはむしろ逆です。アラブ人は、人間は過ちを犯す事は判っています。しかし過ちを犯した人が真摯にその過ちを認め、また我が子を失った悲しみを共に共有する事が出来るならば、そしてしかるべき立場の人が調停してくれるならば、事態は全く別の形で解決されたはずだからです。

そのよい例がパレスチナ問題です。大国が簡単な思いつきでパレスチナ人から奪った権利は誤りであった。パレスチナ人に名誉と権利を復帰させます、と世界が認めれば、そのために仮に世界が多額の代償を支払ったと仮定しても、結果的には遥かに安くつきます。なぜなら、安全、平和を手に入れることが可能であるからです。さもなければ、世界全体が自由で安全といった最も基本的な権利を永遠に失うことになるかも知れません。償うことを忘れた者、躊躇する者は、やがて償いを請求されます。それ相応の報いを受ける事になります。このシステムは時代を超えた生き方を示しています。

どこの国でも、工事業者が公共施設の鉄道を壊したり、道路を壊したり、水道管を破裂させたり、電話線を切断したり、電線を切断したら、直ちに復旧する義務があります。サウジアラビアでは、復旧するまでは、工事責任者が留置所にとどめ置かれることはよくあります。急いで直し、責任者を開放してもらうために、部下は努力します。安全面を重視した品質管理は製造者の義務です。人命尊重の思想と、それに対応する行動が製造業者に無ければ、社会の厳しい目に答えることが出来ません。これが目には目をもって償うことの意味です。

アラブ人は、安全は他人任せにしません。つまり、事故を未然に防ぐことを常に心がけています。レストランが男女を別にするのも、家族と、独身男性を別にするのも、病院も男女別にするのも結局、事故を未然に防ぐための習慣といえます。それは、女性を虐げていることとは別のことです。家の防犯対策や治安、子供や女性の身の安全を守るために男性は骨身を惜しみません。子供を学校に送り迎えし、家族とともに日用品を買出しに行き、大忙しです。また社会全体も自分達の子供、女、文化を宝物のように大切に守ります。自分たちの価値観が何らかの理由で損なわれることが無いように、常に外部からの侵入を見張っています。

特に外国人が多く暮らす工事現場や、まして外国人軍隊が駐留する場合は、自分の住んでいる土地は聖地として認識し、社会や、個人は、外国人が持ち込む文化から固有の価値観が損なわれる事が無いように細心の注意を払います。少しでもおかしいと感じたら、外国人の排斥に情熱を燃やし、激しい抵抗を示します。それは自分たちの文化を守るための当然の権利です。体をウイルスの害から守るため抵抗です。

日常生活でも、衛生には神経を使います。お祈りの前のウドウ(沐浴)で顔や手足を洗うことは、清潔こそ信仰の一歩と、人々が守るマナーです。ウォシュレットの元祖はアラビアです。事務所を作る場合は、ウドウをする場所、祈る場所を確保することが大切です。そこは身体も精神も清められる場所として必要です。

食品に対する安全基準は事細かに規定されています。個人ベースで食料品を日本からアラブ諸国に持ち込む場合は、豚やその油脂などが使われていないもの、また製造過程でもそのような物質や、触媒が使われていないかどうか厳しい検査を受けます。現在ではアラブの大きな町には日本食品を扱う店がありますから、そうした店から購入することが、面倒なトラブルを防ぐことになります。納豆は腐ったものとして敬遠されます。アラブ人を日本で食事に誘う場合、てんぷら、炉端焼きなどの素材がはっきり見えるものが喜ばれます。

現場工事は高所作業を伴うために落下事故の危険があり、注意する必要があります。仮に現場で事故が起き、死傷者が出た場合は、警察の取調べが済むまでは現場への立ち入りは禁止されます。
中東では夏は気温も50度を越える地域はほとんどです。特にヨルダンのアカバやイラクのバスラは高温になります。1000人位の現場では、6月、7月などの真夏では熱射病で1日に50人くらいが倒れることがあります。大きな現場では医者や看護士を常駐させねばなりません。

熱射病対策のために、昼間の労働を禁じ、早朝又は夜間に工事を行うように労働事務所の指導を受けます。冷たい水が自由に飲めるような設備を常設することが労働法で義務づけられます。また飲料水は通行人でも誰でも、すべての人が飲めるように便宜を図るのが常識です。

執筆:片山 廣
アラブ イスラーム学院顧問

 

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