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第12章
【コプトのマーリヤ―その1】
 

エジプトからの贈物

 預言者の家からそう遠くないところ、一軒の私邸があって預言者の夫人の一人が住んでいた。信徒の母と呼ばれることはなかったが、マディーナの夫人たちのなかでただ一人、ムハンマドの息子イブラーヒームを授かったという、栄誉を受けた人である。

 彼女が、マスジドに隣接する預言者の家に住むことはなかった。彼女がその家にそこの住人である他の夫人たちと一緒に生活を送ることはとてもできないことであった。

 彼女一人に対して預言者の全夫人達が団結して騒動を起し、あわや夫ムハンマドが彼女と離縁する寸前にアッタハリームの一節(アーヤ)が降りたときのことを思い出してほしい。

「預言者よ、主(アッラー)が汝のために許されていることを禁じてまで、なぜ妻たちの機嫌をとろうとするのか」……クルアーン第66章(アッタハリーム)1節。

 この夫人はどんな人なのか。どうして預言者の生涯に加えられるようになったのであろうか。そしてどんな問題をかかえていたのであろうか。

 上エジプトの農村地帯、アンサナの近くにハフナと呼ばれる村があった。ナイルの東岸でアシュモーン村に近い村である。ここにマーリヤ・ビント・シャムウーンは、コプト(注1)の父とギリシャ正教派のキリスト教徒の母の間に生れた。

 そこで幼い日々を過ごした彼女は、少女に成長すると姉妹のスィーリーンとともに、コプトの総督ムカウキスの城に移された。

 そこで彼女は、アラビア半島に新しい一神教をとなえる預言者が出現したことを耳にした。そしてこの城にこのアラブの預言者からの使者としてムカウキスに宛た手紙(メッセージ)を運んで、ハーテブ・イブン・アブーバルタアが到着したときに彼女はそこにいたのである。

 ハーテブは入城を許され、その手紙(メッセージ)を手渡した。
「慈悲深く慈愛あまねき神(アッラー)の御名において……ムハンマド・イブン・アブドッラーから、コプトの総督ムカウキス殿へ、神(アッラー)の導きに従う者に平安あれ。私はあなたに、イスラームへの入信を勧めるものである。帰依せよ。されば神(アッラー)はあなたに2倍の報酬を与えられよう。もし帰依(きえ)せぬならコプトの罪は残る。聖典の民よ、我々とあなた方の間では唯一の神(アッラー)を等しく認めている。もし受け入れないのなら、我々がムスリムであることを証(あかし)せよ」

 ムカウキスは、手紙(メッセージ)に目をとおすと丁寧に折りたたみ、象牙の函に入れると、侍女の一人の手に渡した。

 ハーテブに向かって、預言者について話して聞かせるよう頼んだ。話を聞いてムカウキスは、じっと考え込んでいたがハーテブにこう告げた。「預言者が存在することは知っていた。私は、彼はシャーム(シリア地方)に現れると思っていた。そこは、幾多の預言者たちを生んだ地であった。そして今、アラブの地から現れたのを目にしている。しかし私はコプトを離れるわけにはいかないし、私の所有するものを離すこともできそうもない」

 そして書記を呼んで返答を書かせた。
「……あなたのお手紙を拝見し、あなたの説くことがよくわかりました。私は、預言者が存在することは知っていました。私はその預言者がシャームから出るものと思っていました……。あなたの使者を丁重にもてなしました。あなたにコプトのうちでも高位の侍女を二人贈ります。また衣服及びそれを運ぶ動物を……。あなたの上に平安あれ……」

 ムカウキスは、コプトを改宗することができない旨を詫びて、その手紙をハーテブに渡した。また二人の間にかわされた話を内密にしておくよう命じたので、この件についてコプト人は全く知らなかった。

 ハーテブは、預言者のもとマディーナへと出発した。彼とともに贈られた貢物は、マーリヤとその姉妹スィーリーン(注2)、若い奴隷の男が一人、千ミスカルの金、20着のエジプトリネンの衣服、鞍と手綱のついたラバ、灰色のロバ、それにバンハーの蜂蜜と各種の香(オウド、ナッド、ミスク等)であった。

 二人の姉妹は、母国との別れを悲しく思うのであった。愛するワーディーの地になごりを惜しむかのようにふり返りつつ歩くのであった。母国の果てまで来ると、なんの不自由もなく、幼い頃から今に成長するまでを過ごしたそのふるさとの大地に涙をいっぱいにためた目で別れを告げるのであった。

 ハーテブは若い二人の姉妹の嘆きを見て、二人に近づくと、自分の国の歴史や、遠い時代からのマッカやヒジャーズにまつわる物語を話して聞かせるのであった。また、預言者ムハンマドについては忠実な教友として話を続けていった。この話で、二人の乙女はイスラームに、またやさしい預言者に対して心が開かれていった。

 二人は自分たちを待つ新しい生活のこと、またムカウキスの返答を持ち帰るハーテブを待っているマディーナの預言者のことに思いをめぐらしていた。

 一行は、ヒジュラ暦7年にマディーナに到着した。預言者は、フダイビーヤからクライシュとの和平協定を結んで戻ったばかりであった。

 預言者は、ムカウキスの手紙とエジプトからの貢物を見た。マーリヤに心を寄せた預言者は、彼女を引き取ると、スィーリーンを詩人ハッサーン・イブン・サービトに与えた。

 知らせは預言者の家に伝わった。美しいエジプトの乙女、巻毛の髪、魅力的な容貌のエジプト娘がナイルの土地からムハンマドへ贈られて来たと、そして預言者は彼女をマスジドに近いハーリサ・イブン・アッヌアマーンの家に預けたと……。

 アーイシャは、できるかぎりこの新しい乙女のとこは気にとめまいとした。彼女はコプト、異国のはした女であり、国王から国王へ進呈された貢物にすぎないのだ。

 しかし、夫がその異国のエジプト娘を大切に扱う様子に気がかりとなった彼女は、じっと注目するようになった。夫が足繁く彼女のもとを訪れては長く留まるのを見ると、彼女の気持は乱れるのであった。

(注1) エジプトのコプト派キリスト教徒の総称である。
(注2) 4人の乙女が贈られ、そのなかにマーリヤとスィーリーンがいたと伝える文献もある。

転載: 宗教法人日本ムスリム協会 「預言者の妻たち」
アーイシャ・アブドッラハマーン 著
徳増 輝子 訳

(2007年12月14日更新)














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