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第4章
【アーイシャ・ビント・アブーバクル-その6】
 

多妻-新しい妻たち-その1

 ときには、それで亡き夫人のことを忘れることができるものと、彼女はその痛手をいやしてくれる夫の愛情に浸って幸せであった。ところが、突然預言者が新しい妻を迎えたのである。新しい妻は、彼女とサウダに続いた部屋を占めて、それからは、昼も夜も彼女たちの結婚生活に加わるようになったのだ。

 この新しい妻とは、イスラームで最も強い権力を持つ人物、オマル・イブン・アルハッターブの娘ハフサであった。

 アーイシャにとって、ムハンマドが、この新しい夫人を迎えたことは非常な衝撃であった。預言者は、ハディージャが妻であるときは、彼女が65歳で死去するまで決して他に妻を娶るようなことはなかったではないか!

 これは、アーイシャの若さでも、父親の名声でも、預言者の彼女に示す愛情でも、どうしようもない衝撃であった。ハディージャの生きていたときには、夫は決してこんな不幸を、彼女に味わわせることのなかった悲劇である。

 やがてハフサに続いて、たくさんの夫人たちが嫁いできて、この9つの家はいっぱいになってしまうのである。その夫人たちの中には、若くて美しいザイナブ・ビント・ジャハシ、名門の佳人ウンムサラマ・ビント・アブーウマイヤ、また魅力的なジュワイリーヤ・ビント・アルハーリス、ユダヤ人で捕虜となっていた美しいサフィーヤ・ビント・ホヤイ、そしてマッカの大物アブースフヤーンの娘ウンムハビーバ等が数えられる。

 またこれらの夫人たち以外にも、魅力的なエジプト娘で、イブラーヒームを生んだマーリヤがいる。正式に妻とはしなかったものの、生涯ムハンマドの庇護のもとに暮したクライザ部族の美人ライハーナがいる。

 これらのことが、年月の過ぎていくうちに、自然とアーイシャに、一夫多妻の生活を受け入れさせていくことになる。しかし一部の人びとが言うようにアーイシャがこの生活に慣れていったからといって、彼女の競争意識が消えたわけでも、また、ウンム・アブドッラーと呼ばれたり、信徒の母とされたことで、子供できない淋しさがいやされたわけでもなく、ムハンマドのような立場の夫を持つ妻として、愛する人の子供を欲しいと願い続けたのは当然で、そんな彼女の気持を無視する人びとの考えは誤りである。

 アーイシャは、はじめはこの運命づけられた同僚たちを、どう受け入れたらよいかわからなかった。

 ムハンマドが、たとえ人間としての欲望を感じていたとしても、その結婚は政策のために行なわれることを、彼女も、また他のムスリムたちもみなよく知っていた。そしてアーイシャが、この多くの夫人たちの中でも、最も愛されている妻であることもよく知っていた。

 では、彼女は満足して安住していたのでは? いや、彼女は安住どころか、自分が占めている夫の心に、他の妻たちを近づけまいと、そのためにはどんな手段をも使ったのであった。

 あるときは、女の弱さを見せて夫の気をひこうとしたし、あるときは知恵を働かせて相手を陥(おとしい)れたり、またあるときは彼女の若さで勝負をいどむこともあった。

 預言者が、欲望や感情からのがれられない人間であったと同じように、アーイシャや、他の夫人たちからも、良きにつけ悪しきにつけ、人間をとり払うことはできなかったのであるが、このことも、アーイシャにそのような態度をとらせることになったのかもしれない。

 アーイシャを彼女の意のまま、自然のままにしておこう! またそれぞれの夫人たちも思いのままにしておくことにしよう!

 もし、彼女たちの競争意識が激しくて、そのあまりにもひどい嫉妬が、ムハンマドを悩ますときは別であるが……。

 アーイシャは、預言者の妻たちの中で最もやきもちやきであったし、夫の愛を独占するために、最も激しく争った夫人であった。

 アーイシャは、ハディージャの亡きあとのムハンマドの心が、まず自分に向けて開かれたこと、自分のみが処女のまま夫のもとに嫁いだこと、自分はアブーバクルの娘であることを誇っていた。

 彼女は、他の妻たちを自分と比べてみた。できるだけ公正に、それぞれの長所を見つめようとした。しかしそれは、彼女たちの良さを認めようとしたからではなく、自分の彼女たちに対抗できる力を知るためなのであった。そして相手にならない夫人や、危険のない妻たちを、その数の中から落していった。

 たとえば、サウダ・ビント・ザムアとか、結婚後、数か月で死んでしまったザイナブ・ビント・ホザイマ等である。そして、その後に残る夫人たち全員を相手どる力を自分に見つけたのである。他の夫人たちのグループは、アーイシャがムハンマドの家に来て以来、ライバルのように感じていたファーティマ夫人(預言者の娘)に支援されていたが、その彼女たち全員に対抗できる自信であった。

 彼女は夫人たちの中から、競争する危険も少なく、しかも勇気と知性に富み、父親同士の関係から見ても申し分ない人、ハフサ・ビント・オマルを味方にしたいと思った。

 ハフサもこれにこたえた。彼女にとっても、預言者が寵愛する妻の友情を得ることは喜ばしいことであったし、なによりもオマルの娘がアブーバクルの娘と親しく交わることは好ましいことであった。

 ムハンマドが、ウンムサラマと結婚すると聞いて以来、アーイシャはハフサには自分の秘密を打ちあけるほどの間柄となった。人びとが噂するウンムサラマの美しさに、アーイシャが不平をもらしたときも、ハフサは、彼女は年増であり、その美しさはやがて消え去ってしまうであろうと慰めて、アーイシャの嫉妬心を他の夫人に向けさせたのであった。そしてまもなくそのとおりのことが起きた。

 クライシュ族の若く美しいザイナブ・ビント・ジャハシに向けて、アーイシャはあるかぎりの競争心を燃やした。すでに彼女が嫁いでくる以前からそんな状態であった。啓示が降りて預言者がその従妹(いとこ)(注14)との結婚を宣言すると、アーイシャは嫉妬と怒りにかられてこう言った。
「あなたの主(アッラー)は、あなたの願いをすぐにきき届けるのですね!」

 アーイシャは、ハフサとともにその新しい妻を注意深く観察していた。夫が彼女のもとで過ごす時間数や秒数まで測ったりした。そして彼女と過ごす時間が長びくのを知ると、夫を彼女から遠ざける方法を考えた。彼女のその案に、ハフサとサウダが加わった。それは使徒がザイナブの部屋から出て3人のうちの誰のところにやって来ても「マガーフィールを食べたの?」と言うことであった。

 マガーフィールとは、甘くておいしい実のことだが、においが強い植物で、ムハンマドはそのいやなにおいを嫌っていた。

 ムハンマドは、アーイシャのところへやって来た。彼女は夫の息をかいで言った。
「マガーフィールのにおいがしますわ、マガーフィールを食べたのですね」

 同じようにハフサも言った。

 サウダのところに寄ると、彼女も同じことを聞くので、彼は「違う」と答えた。するとサウダは「ではこのにおいは?」と聞くと、「ザイナブのところで蜜を飲んだが……」とムハンマドは言った。そこでサウダはベドウィンの飼育法にたけている口調で、「ではハチをアルファトの花で育てたのですね、きっと」と言った。アルファトはマガーフィールの実を結ぶ木である。

 そのとき以来ムハンマドはザイナブのところで蜜を飲むのをやめたという。

 サウダは後悔して、二人の仲間に「神(アッラー)よ、私たちは彼に悪いことをしました!」と嘆いたが、アーイシャはサウダをにらむと「黙って!」とささやいた。

(注14) ザイナブ・ビント・ジャハシは預言者の従妹にあたる。

転載: 宗教法人日本ムスリム協会 「預言者の妻たち」
アーイシャ・アブドッラハマーン 著
徳増 輝子 訳

(2007年5月25日更新)














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