学習メモ1:アラビア語における音の同化について
アラビア語を学習されている方ならば上の表を見ていて気づかれると思いますが、アラビア文字の表記と読みの表示の間に微妙な差が何か所か生じています。これは「n」発音上起こる音の同化が原因で、この通りに発音するとより自然な読みになります。
このページでは、音が同化している部分にはハイライトをつけてあります(アラビア語部分のみ)。いずれも同じタイプの音の変化(イドガーム:idghaam)です。このイドガームは子音(無母音の)「 n 」の後に「 y 」「 r 」「 m 」「 l 」「 w 」「 n 」の6つのいずれかが来た場合に、「 n 」はそのまま発音されることなく、後に来るこれらの音に同化してしまうという変化です。太陽文字とシャッダの関係に似ている、と考えれば一見複雑に見えるこの変化も理解しやすくなるかと思います 。
〔例〕 ashhaduallaa ilaaha illallaah<u>:「an +laa」→「 allaa 」
〔例〕 ashhadu anna muHammadarrasuurullaah<i>:「 -an +ra- 」→「-arra-」
〔例〕 aSSalaat</ti></h> khayrumminannawm<i>:「 -run +mi- 」→「 -rummi-」
学習メモ2:定冠詞 al- の前後の発音について
*ハムザトルワスル*
ハムザトルワスルとは、前に別の単語が来た場合に発音されないハムザのことです。アラビア語ではハムザトルワスルにはハムザを書かず、台になるアリフだけを書きます。青字になっている部分はハムザトルワスルがあるために発音が変化していることを示します。
定冠詞al-の「a」(通常はハムザなしでアリフのみ書かれます)はワムザトルワスルです。そのため、この「a」の前に続けて別の単語を読んだ場合、「a」の音は発音されません。
*イドガーム・シャムスィー(子音:無母音のラームと太陽文字との同化)*
定冠詞al-の「l 」の後に、発音する場所が近い音(太陽文字:ハルフ・シャムスィー)が来た場合、この「l 」は後に来る太陽文字に同化され、太陽文字の部分にシャッダがつきます。そのため、定冠詞al-の前に単語を続けて読み、しかもあとに太陽文字が来た場合、本来のal-「アル」という音は発音上そのままでは現れなくなります。
〔例〕 aSSalaatu khayrumminannawm<i>:「al +Sa- 」→「 aSSa- 」
〔例〕 aSSalaatu khayrumminannawm<i>:「 min + (a)l +naw- 」→「 minannaw- 」
〔例〕 Hayya `alaSSalaa</ti></h>:「 `alaa +al +Salaa</ti></h>」→「 `alaSSalaa</ti></h> 」
*3つの子音を連続させないために起きる音の変化*
上のイドガーム・シャムスィーの説明における2つの例を見て気づかれた方もいると思いますが、「alaa」「illa」や「min」のあとに「al-」が来ると発音が変化します。これは3つの子音が連続しないようにするために生じている変化です。
*長母音の後に来る定冠詞*
長母音である「 aa 」ですが、母音記号を下の単語中のすべての文字につけると次のようになります。
「`alaa( عَلَىْ )」、「illaa( إلَّاْ )」、「'ilaa( إِلَىْ )」
つまり、長母音はスクーンが表記されていない(文法書や詩の韻律論の著作などでは表記されていることがあります)だけで、実際は「短母音+無母音:子音」の組み合わせであり、上のような単語はいずれも「無母音:子音の弱文字で終わっている」とみなされます。このことを踏まえると、次のような変化の原因が理解しやくすくなるでしょう。
〔例〕「 Hayya `alaa al- + Salaa</ti></h> 」「 Hayya `alaa aSSalaa- 」→「 Hayya `alaSSalaa- 」
上でも述べたように、長母音を構成している2文字のうち2番目は子音となっています。そのため、「アラー(〜の上に)」、「イッラー(〜を除いて)」、「イラー(〜へ)」などの後に定冠詞al-が続くと「a」が発音されず「子音+l+子音」となり3子音の連続が起こってしまいます。そのため、子音の衝突を避けるために長母音中の子音が省略されます。
つまり、このような場合、「アラーッサラー」ではなく「アラッサラー」に、「ラー イラーハ イッラーッラーフ」ではなく「イッラッラーフ」になるわけです。
〔例〕「 min + (a)l + naw- 」→「 minannaw- 」
「a」はハムザトルワスルなので発音されず、しかも定冠詞al-の後に来る「n」に「l」が同化しているので、「 min + nnawm 」と「n」が3つ連続してしまいます。従って、子音の3連続をさけるために、「min」と「nnawm」の間に補助母音「a」と加えます。
学習メモ3:ワクフについて
ワクフとは、単語の最後の部分で発音を切り/止めること、その後に来る単語とは発音を続けないことを指します。息継ぎをするために、話し手がある単語で止まった場合に起きると考えればわかりやすいと思います。ワクフといっても、さまざまな変化がありますが、ここではその中でも一般的な止め方を紹介します。
〔1〕ファトハ(a音)の後がタンウィーンになっている場合(-an)
ファトハの後がタンウィーンになり、「-an」の音で終わっている単語の発音を語末で止める場合、「-an(アン)」ではなく「-aa(アー)」と発音が変化します。
私はザイドを見ました
(ra'aytu zaydaa←zaydan) |
رَأَيْتُ زَيْدَا ( زَيْدًا )
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〔2〕ダンマ(u音)とカスラ(i音)の後がタンウィーンになっている場合(-un/-in)など
ダンマの後がタンウィーンになり、「-un」の音で終わっている単語や、カスラの後がタンウィーンになり、「-in」の音で終わっている単語やの発音を語末で止める場合、「-un(ウン)」や「-in(イン)」の音は無くなり、変わりに最後の文字が無母音になります。
このほかにも、母音で終わっている単語などもワクフによってその最後の文字が無母音に変わります(=文字にスクーンがつきます)。
ザイドが来ました
(jaa'a zayd←zaydun) |
جَاءَ زَيْدْ ( زَيْدٌ)
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私はザイドに挨拶しました
(sallamtu `alaa zayd←zaydin) |
سَلَّمْتُ عَلَى زَيْدْ ( زَيْدٍ )
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アフマドが来ました
('ataa 'aHmad←'aHmadu) |
أَتَى أَحْمَدْ ( أَحْمَدُ )
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二人の男が来ました
(jaa'a rajuraan←rajuraani) |
جَاءَ رَجُلاَنْ ( رَجُلانِ )
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公正なる王が来ました
(jaa'a-l-maliku-l-`aadil←`aadilu) |
جَاءَ الْمَلِكُ الْعَادِلْ ( الْعَادِلُ )
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〔3〕ターマルブータで終わっている場合
単語がターマルブータ(ة )で終わっている場合、ワクフによって「-tun/-tin/-tan」や「-tu/-ti/-ta」ではなく、無母音の「h」に変わります。
ファーティマは帰りました
(`aadat faaTimah←faaTimatu) |
عَادَتْ فَاطِمَهْ( فَاطِمَةُ )
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上のアザーン紹介で最後の部分、もしくは意味的に途切れていて、読む際に息継ぎをするであろう部分には〈 〉をつけてありますが、この〈 〉の中に入っている文字は、ワクフの際に発音しない文字、もしくはターマルブータの代わりに発音する「h」となっています。
みなさん、上の説明はわかりやすかったですか?いずれにせよ、英語や日本語と同じように、アラビア語でも音の同化が起こることを皆さんに知っていただけたかと思います。アザーンやクルアーンの朗誦に限らず、こうした発音の変化の仕組みを学ぶと、アラビア語会話の際に、発音がより自然になります。皆さんも興味があれば、ぜひこうしたアラビア語の音の変化について学んでみてください。
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